広報PRコラム#88 「情報発信」をひもとく(3)

こんにちは、荒木洋二です。

企業は何のために情報を発信するのか。前回は情報発信の目的を明らかにしました。

大別すると二つの目的があります。知らせるためと、選ばれるためです。あまりにも簡潔な答えを導き出したことに、拍子抜けしている人もいることでしょう。経営の現場で言うと、一体どういうことなのか。現場の具体的な実務に置き換え、もう少し詳しく解説します。

◾️経営者が直面する五つの課題

経営者が直面する課題とは何か。想定し得る課題を一つずつ挙げ、今一度、情報を発信する目的について整理してみます。ここでは代表的な五つの課題を挙げます。

①売り上げ
まず、経営者から最もよく聞かれる課題は、売り上げの増加だ。つまり新しい顧客をいかに獲得するのか。あるいは、自社商品・サービスをいかに継続して購入し、利用してもらえるのか。ほとんどの経営者は常に頭を悩ましている。

②採用・雇用
次に挙げる課題は、優秀な人材の採用だ。新卒にしろ中途にしろ、自社のさまざまな現場で戦力となり得る人材をいかに獲得するのか。あるいは、そんな人材が離職せずに定着してくれるのか。

③開発
3番目の課題は、革新的な商品・サービスの開発だ。今や国内にとどまらず国外までを範囲にした、分業によって事業が成り立っている。分業しなければ成り立たないのが、現状だ。多くの協力者なくして価値を生み出し、提供することはできない。分業が当たり前の現代は、協業の時代とも言える。
協力者とは商品開発で言えば、供給網や販売網を担う取引先やパートナーのことだ。サービス開発で言えば、システム構築・導入、システム連携、販売代理などが当たる。事業開発では業務提携先などを指す。より良い協力者をどう見つけ、どう関係を築けるのか。今の協力先とより強固な関係を築けるのか。
適切な協業先を見つけたり、卓越したアイデアを生み出したりする経営コンサルティング会社も重要な協力先の一つだ。

④資金調達
4番目は資金調達だ。事業に先行投資は欠かせない。競争を勝ち抜くためには事業展開にスピードが求められる。投資により事業推進の速度を速め、期間を短縮させることもできる。ベンチャーキャピタル、エンジェル(個人投資家)、金融機関などから、どうすれば資金を調達できるのか。

⑤報道
最後はメディア露出、すなわち報道機会の増大だ。中小・中堅企業、スタートアップにはプレスリリース、すなわち報道関係者向け発表資料を書ける人材がほとんどいない。広報部自体を設けていない企業がほとんどであり、未経験者が一人で担っている例も少なくない。

◾️課題の根本は何か

ここまで挙げた五つの課題の全て、あるいはいくつかが当てはまる企業は少なくないでしょう。

課題はそれぞれがばらばらに見えますが、実は根本でつながっています。課題の根本は、全て同じ言葉で言い表すことができます。それが何なのか、分かりますか。結論を述べます。

今よりもっと選ばれるには、どうすればいいのか。

五つの課題を一つ一つ、言い換えつつ確認していきましょう。

①売り上げ :今よりもっと、新規顧客候補から選ばれるにはどうすればいいのか
 今よりもっと、既存顧客から選ばれ続けるにはどうすればいいのか


②採用・雇用 :今よりもっと、新卒・中途の求職者から選ばれるにはどうすればいいのか
 今よりもっと、社員・スタッフから選ばれ続けるにはどうすればいいのか


③開発 :今よりもっと、取引先・パートナー候補から選ばれるにはどうすればいいのか
 今よりもっと、取引先・パートナーから選ばれ続けるにはどうすればいいのか


④資金調達 :今よりもっと、投資家・金融機関から選ばれるにはどうすればいいのか
 今よりもっと、既存株主から選ばれ続けるにはどうすればいいのか


⑤報道 :今よりもっと、報道機関から選ばれるにはどうすればいいのか
 今よりもっと、報道機関から選ばれ続けるにはどうすればいいのか

こうして確認していくと、明らかになることがあります。

全ての課題は、利害関係者(ステークホルダー)に関わることなのです。企業にとって利害関係者とは、価値を共に生み出し、提供する大切な仲間たちと言えます。成長するため、存続するためにはその存在は絶対に欠かせません。

◾️経営者の本音は「今よりもっと選ばれたい」

経営者や現場で実務を担当する人たちは、表面的には、(言い方は少々きついですが)上辺ではどんな声を上げているのでしょうか。売り上げを増やしたい、優秀な人材を採用したい、離職率を低下させたい、と口にしていますよね。イノベーションを起こしたい、資金調達したい、メディアで取り上げられたい、と声高に叫んでいますよね。これらが日常の見慣れた風景になっているかもしれません。

しかし、本質を突き詰めていくと見えてくることがあります。本音が明らかになるのです。未来の、あるいは現在の利害関係者たちから今よりもっと選ばれたい、というのが経営者たちに共通する思いなのです。悩める経営者たちに代わり、その思いの根本を簡潔に、しかもその本質を端的に言い表すと、どうなるのか。

今よりもっと選ばれたい! 

この一言に集約できるということです。

企業にとって情報発信は宿命です。情報を発信する目的は何か。その最終目的は選ばれるためなのです。もっと長期的視点で言えば、永続を願う企業が情報を発信する目的は、選ばれ続けるためだ、ということです。

今回は、情報発信の目的を前回より掘り下げ、突き詰めてひもときました。

次回は、誰に情報を発信するのか、この「誰に」の部分に焦点を当てていきます。

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