広報PRコラム#73 パブリシティの未来(7)

こんにちは、荒木洋二です。

前回はパブリシティをマーケティングの文脈で扱うことの危うさについて言及しました。

企業社会の現場では、売り上げに直結する成果を期待する傾向が、近年ますます顕著に現れています。パブリシティに過剰な期待と重荷を負わせている現状が、パブリシティの未来に暗い影を落としかねません。

■パブリシティへの過剰な期待と誤解が招く「失望」

そもそも成果に対する誤解が生じています。

テレビや新聞で報道されることで、問い合わせが殺到したり、売り上げが急増したりすると捉えている人が少なくないとみています。パブリシティを現状を一変させられる「魔法の杖」だ、と信じている節も見受けられます。

業績や企業価値の向上は企業の総合力に左右されます。たった一つの施策によって実現できるものではありません。そんな「魔法の杖」は存在しません。

接点を増やすため、広告展開やLP(ランディングページ)の制作、SEO(検索エンジン最適化)対策などウェブマーケティング担当による的確な種蒔きも必要です。獲得したリストをもとにした営業担当による地道なアプローチや、関心や課題を察知できる感性も欠かせません。そもそも製品やサービスの質が悪ければ、顧客はすぐに離れてしまいます。品質向上に取り組む開発部門の果敢な挑戦は貴重な営みです。顧客対応を担当するスタッフたちも重要です。微妙な変化を見逃さない洞察力や、丁寧なコミュニケーションが顧客生涯価値を向上させる武器になります。広報担当がさまざまな「舞台裏」を伝え続けることで、製品だけでなく会社の魅力に触れます。それがきっかけとなり、一般顧客だった者が熱心なファンとなり、ひいては自らその会社や製品の魅力を伝えるエバンジェリスト(伝道者)として成長することもあります。もちろんパブリシティも成長を牽引する一つの要因となり得ます。

このように売上高の増加や企業価値の向上には、企業の総合力が問われるのです。全ては組み合わせと積み重ねの上に成り立ちます。当たり前のことなのですが、このような認識が決定的に欠けていると言わざるを得ません。

生活者個人を対象とした製品やサービスだった場合、時と条件によっては一時的に問い合わせが殺到したり、売り上げが急増したりすることがまれに起こることもあるでしょう。しかし、それは一過性のものに過ぎません。そんな現象が毎回起こるはずがありません。

このパブリシティの成果に対する誤解が、次のようなパブリシティへの失望を招くのです。

・広報しても意味がない

・たいした成果は上がらない

・うちの会社に広報はさして必要ではない

誤解されたまま、見向きもされなくなったパブリシティの行く末が明るくなるはずがありません。

■記事なのか、プレスリリースなのか

今まで述べたことはパブリシティの成果に対する誤解です。もう一つ、別の誤解があります。

それはパブリシティ自体に対する誤解です。パブリシティの意味を理解していない、すなわち「報道」そのものへの認識が間違っています。冷静に考えれば分かることが、なぜか事実を正確に捉えることができないでいます。
前回も警鐘を鳴らしたように、そもそも報道関係者と向き合う姿勢が見受けられません。ニュースをつくり、記事を書くのは記者や編集者などの報道関係者たちです。彼らのことを理解しようとする意識も感じられません。

その傾向に拍車をかけたのが、前回触れたプレスリリース配信事業者の隆盛がもたらした弊害です。プレスリリース、ニュースリリースの「わな」です。

これら配信サービスの利用経験者であれば分かるように、利用企業からは報道関係者個々人の姿は見えません。リストとして「媒体名」が存在するだけです。配信事業者にとっては記者個人のメールアドレスは貴重な財産です。個人情報保護の観点から、報道関係者自身が面識のない企業などにアドレスを公開することを許容していません。当然のことといえます。ですから報道関係者を生身の人間ではなく、パソコンの画面上に並ぶ「媒体名」のリストとしてしか認識していません。

配信サービスは大企業も利用しています。
ただ、広報部を設けている大企業は既に記者クラブでのつながりがあり、自社の豊富な記者リスト、メディアリストも整備されています。必ずと言っていいほど、主要マスメディアに自社を担当する記者がいます。プレスリリースの配布や取材依頼、質疑応答など、日常的にやり取りが発生しています。長年にわたる良好な関係がすでに築かれています。今も続いています。この土台があります。

それなのに、なぜ配信サービスを利用するのでしょうか。

その理由の一つが、配信サービスの一環として各事業者が提供している仕組みにあります。

いずれの事業者も100を超えるサイトと提携しています。マスメディアのウェブサイト、大小さまざまなポータルサイトなどで構成されています。
これら提携サイト全てにプレスリリース掲載コーナーが設けられています。報道関係者の視点から書く「記事」ではなく、プレスリリースをそのまま掲載するコーナーが存在しています。発信内容(テーマ)や企業規模(影響力の大小)によって増減しますが、1回の配信で30〜60くらいのサイトに掲載されます。
プレスリリースには、企業サイトや商品サイトのURLが必ず記載されています。つまりSEO対策として有効なのです。膨大な情報を日々発信し、大勢の利用者がアクセスするニュースサイトやポータルサイトから、自社のウェブサイトにリンクがはられるとどうなるのか。検索順位を上げることにプラスに働きます。だから大企業も利用するのです。この行動自体、まさしくマーケティング文脈での取り扱いといえます。

このような仕組みがパブリシティに関する大いなる誤解を生み出しています。

プレスリリース掲載コーナーに、一切編集を施さずにそのままプレスリリースが掲載されます。報道関係者たちが、プレスリリースなどから与えられた情報をもとに自らの視点と言葉で「記事」を書くことが「報道」です。プレスリリースそのものを掲載することは断じて「報道」ではありません。
にもかかわらず、公式や個人のソーシャルメディアで「報道されました」と発信しています。企業サイトの「メディア掲載」や「報道実績」のページにも堂々と掲載しています。何が記事で何が記事ではないのか、理解できていません。混同してしまい、整理できていません。

■報道関係者との不和や埋めがたい溝も

パブリシティや報道に対する無理解、報道関係者と向き合わない姿勢は企業経営に重大な影響を及ぼします。報道関係者との不和を生み、結果として埋めがたい溝まで生じることにつながりかねません。次回はこの問題を掘り下げます。

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