初級講座 Ⅰ.理論・基礎知識 広報PRって何をするの? 伝わるをひもとく(2)
こんにちは、荒木洋二です。
「広報PRって何をするの?」は四つの項目に分けて解説を進めています。全体の4項目の2番目が「伝わるをひもとく」です。「みる・きく・考える・伝える」というコミュニケーションの中で、「伝える」とは何かに焦点を当てます。今回は3回にわたる解説の2回目です。
前回述べたとおり、要点は二つです。
(1)どうすれば(利害関係者にその組織の価値が)伝わるのか。
(2)何が伝わる(と信頼関係は結ばれるの)か
前回は「(1)どうすれば伝わるのか」について解説しました。どうして伝わらないのか、その原因について述べました。
なぜ、相手(利害関係者)に企業・組織が伝えたいことが伝わらないのか、理解してもらえないのか、価値が伝わらないのか。それはひとえに相手のことを理解できていないからです。なぜ、理解できないのか。それは相手の立場に立てないからです。相手の立場に立てないから、相手の「状態」や「状況」がまるで見えません。相手のことが見えていない、把握できていないから、伝え方が分からないし、伝え方を間違えてしまうのです。
では、どうすればいいのか。
相手に合わせて、つまり相手の「状態」と置かれた「状況」に適するように「伝え方」を工夫したり調整したりしなければならないということです。今回はこのことを掘り下げて一つ一つ説明していきます。「(2)何が伝わるのか」は次回説明し、「伝わるをひもとく」を締めくくります。相手が見えないのは、相手の置かれた「状態」と「状況」を知らないからです。あるいは知ろうとしていないのです。相手のことをよく知ることから始めなければなりません。
・相手の置かれた「状態」を知る
まず、相手の置かれた「状態」を知りましょう。相手とは生活者です。あるいは企業・組織に属する個人、組織人のことです。その年齢・性別や属性(趣味・嗜好)を知ることです。心理面や健康状態はどうなのか。どの程度の知識を持っているのか。組織人であれば、自らが所属する組織に対してどの程度理解しているのか。周りの人たちとの関係はどうなのか。社会との関わり方はどうなっているのか。組織人として、どう組織と関わっているのか。どんな気持ちで働いているのか。
次に相手の置かれた「状態」を知るといった場合、今述べた内面や人間関係だけでなく、どのように情報を得ているのかを知ることも必要です。スマートフォンやタブレットなどの携帯端末なのか。ノートやデスクトップなどのPC端末なのか。あるいはテレビなのか。新聞や雑誌などの印刷媒体なのか。いくつかを場面や状況によって変えつつ情報を得ているのか。あるいは全てを駆使して情報を得ているのか。
・相手の置かれた「状況」を知る
このように相手の置かれた「状態」を知ることができたら、次に相手の置かれた「状況」を知りましょう。例えば、相手の1日を見てみましょう。仕事や学校に行っているのか。行っているのであれば、今、施設の中にいるのか、外にいるのか。オン(仕事中・授業中)なのか、オフ(休憩中)なのか。通勤・通学の最中であれば、朝なのか帰路なのか。移動は電車・バスなのか、自動車を運転しているのか。自動車であれば、ラジオを聞いているかもしれません。その1日が休日であれば、プライベートの時間です。レジャーや買い物などで外出しているのか。どこに出かけているのか。自宅にいるのであれば、一人暮らしなのか。家族と同居しているのか。未婚・結婚、子どもの有無、親と同居なのか。これら全てが相手の置かれた「状況」です。
次に「状態」と同様に「状況」にももう一つの側面があります。情報を主にどうやって受け取っているのか、ということです。主要な情報収集の手段です。人を通してなのか。印刷媒体、紙媒体で文章をしっかり読んでいるのか。受信した電子メールからなのか。それは文章なのか、動画なのか。ウェブサイトやさまざまなSNSに自ら積極的に情報を取りにいっているのか。文章を読んでいるのか。動画を視聴しているのか。
・相手に適した「伝え方」を知る
このように相手の置かれた「状態」と「状況」が分かることで初めて、相手に適した「伝え方」が何なのかを考えることができます。では、相手に適した伝え方とはどんなものがあるでしょうか。伝達方法で伝達手段のことです。口コミなどの口頭なのか。印刷媒体がいいのか、電子メールなのか。ウェブサイトやSNSなのか。どれが適しているのか、ということです。
次に適した伝え方といった場合、媒体や手段ではなく、内容や表現に着目しましょう。世代によっても違うでしょう。高齢者であれば、新聞や雑誌などの文章に慣れ親しんでいるので文章がいい人もいるでしょう。理解がまだ足りない人が理解を深めようとした場合、写真や図表・図解あった方が伝わる、つまり理解できるでしょう。それでも難しい場合、漫画やイラストの方が非常に伝わりやすい、理解されやすい傾向もあります。歴史を学習する際に、文章よりも漫画の方がテストの平均点が3倍になった事例もあります。仕事などで忙しい人であれば、移動時間でさっと短い動画を視聴することで関心が高まったり、理解を深めたりすることもあるでしょう。相手の状態と状況がどうなのかによって、同じ個人でも変わってきます。どういう内容でどういう表現方法が適しているのか。同じ個人でも変わってきます。このように相手のことをより深く知りましょう、ということです。
つまり、今まで説明してきたように相手の立場に立ち、伝達手段や内容、表現方法を組み合わせるのです。相手の状態と状況、企業・組織でいえば、内部環境と外部環境がどうなのか。これらを組み合わせます。その個々の組み合わせを理解したうえで、それに対してどういう伝え方をするのか。口頭なのか文章なのか、動画なのか。相手の立場に立って、これらを組み合わせて伝えていくのです。関係を継続するなかで、コミュニケーションを続けるなかで実践しながら最適なものに組み替えていくのです。つまりトライ&エラーを繰り返しながら、根気よく地道にコミュニケーションを続けながら、創意工夫をして伝えていく、価値を伝えていくのです。この積み重ねが「弾み車」になるのです。
・「弾み車」とは
「弾み車」とは何か。米国の著名な学者であるジム・コリンズ氏が著書『ビジョナリー・カンパニー2 飛躍の法則』(日経BP社刊)で「弾み車効果」について、述べています。大きな弾み車を回すには同じ方向に力を加え続け、押し続けていかなければ回りません。動きません。ずっと根気よく押し続けるなかで、やがて遠心力が働いて勢いよく弾み車が回り出します。すると、そこで初めて周囲はその弾み車に気付いて、口々に言うのです。
「ものすごい勢いで回っていますね。何回目のひと押しがよかったのですか」。
「100回目ではないですか」。
「いや、1万回目ではないか」。
どれも不正解です。諦めずに地道に継続して同じ方向に押し続けた結果、その全ての積み重ねの結果として、「今」があるのです。
広報PRも同様です。企業社会では広報PRは大企業・有名企業が行うものだ、との誤った認識を抱いている人が少なくありません。大企業・有名企業だから実施しているのではありません。広報PRを変わらず続けているからこそ、大企業に成長できたし、今も大企業でいられるのです。広報PRをしなければ、成長できなかったのです。状態と状況、伝え方、それぞれに二つの側面がありました。これらをそれぞれ縦横無尽に組み合わせていくことが大事なのです。試行錯誤を繰り返しながら、相手に最適な組み合わせを見つけ出していくことが重要なのです。
つまり、組み合わせの妙です。どういう組み合わせにしたら、相手に価値が深く伝わるのか。これは組み合わせの妙なんです。たった一つで全てをカバーすることはできません。同じ人であっても状態によって状況によって、感じること、伝わるものは日々変化します。だから、できる限り創意工夫して、相手の立場に立って組み合わせていく、その妙によって最適なものが分かり、相手に伝わっていく。そのためには、その取り組みの連続ですから、積み重ねによる「弾み車」を回していくことで、ようやく利害関係者に企業・組織の価値が伝わっていくということです。
最後にもう一度今回の講座を振り返ってまとめます。
自らの意思や思いが伝わるかどうかは、相手の立場に立つことができるかどうかが肝要です。そのためには
・相手の置かれた「状態」を知る
・相手の置かれた「状況」を知る
・相手に適した「伝え方」を知る
そのうえで
・相手の立場に立ち、「状態」「状況」「伝え方」を組み合わせる
そして、相手とコミュニケーションを継続しながら、その組み合わせを
・実践しながら組み替える
地道に根気よくコミュニケーションを継続しながら
・トライ&エラーを繰り返す
常に変化する相手と向き合うために、三つの要素を組み替える取り組みを積み重ねるしかありません。
・積み重ねが「弾み車」となる
・組み合わせの妙と積み重ねによる「弾み車」の結果、相手に伝わる