Weekly Essay 「野性味」がそがれた日本企業

一橋大学名誉教授の野中郁次郎さんをご存じでしょうか。多くの人はベストセラー『失敗の本質』(ダイヤモンド社)の共著者として認識しているかもしれません。最も世界で知られている日本人の経営学者の一人であることは間違いがありません。

私は前述の書籍の共著者としてではなく、2年ほど前に「SECI(セキ)モデルの提唱者として明確に認識し、尊敬しています。どんな経緯で知るに至ったのか。2年前の11月29日に当ニュースルームに投稿した記事でその経緯に触れていますので、ここで再掲します(イタリック文字部分)。

今年の9月下旬、SECIモデルと起業後の実体験とがことごとく重なり、その理論が腹落ちしたのです。ある書籍の解説を読み進めると、今までの歩みが瞬時に想起され、鮮やかに蘇り、モデルを構成する四つの事柄が意味あるものとして身体に染み込んできました。妙な高揚感に包まれたまま、一気に読破できました。
その書籍とは、入山章栄氏の著書『世界標準の経営理論』(ダイヤモンド社刊、2019年)です。800ページを超える大作で、(入山氏いわく)現時点で学ぶべき世界の主要経営理論約30を解説しています。SECIモデルは、主要経営理論の一つとして紹介されていました。日本人ではただ一人、野中氏が登場し、その理論を入山氏が分かりやすく解説していたのです。野中氏を評する入山氏の文章に惹かれ、吸い込まれるように読み進めました。SECIモデルは、組織の知識創造理論であり、「この世に一つだけ、知の創造プロセスを描き切った理論」だと評していました。入山氏の叙述を続けます。「SECIモデルほど、知の創造を深く説明したモデルは存在しない」といいます。「いまビジネスの世界で大きな課題となっているイノベーション、デザイン思考、そしてAIとの付き合い方にまで、多大な示唆を与える。これからの時代に、不可欠な理論」だと絶賛しています。

このSECIモデルの提唱者である野中名誉教授のインタビュー記事が、先週7日に日本経済新聞に掲載されました。バブル崩壊後の「失われた30年」に苦しむ日本企業の本質とは何なのか。野中教授は「行動が軽視され、本質をつかんでやりぬく『野生味』がそがれてしまったこと」と喝破しました。

自分自身に照らし合わせてみました。当社は「野生味」をそがれてしまっていないか。「野生味」を失わず、むしろもっと磨きをかけて、今の時代を切り拓きたい。そんな思いを強くさせてくれるメッセージでした。


10月2日(月) 荒木洋二のPRコラム
広報PRコラム#97 「情報発信」をひもとく(12)


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