広報PRコラム#97 「情報発信」をひもとく(12)

こんにちは、荒木洋二です。

前回は、採用の場面で多くの企業が固定観念にとらわれ、思考停止のまま画一的な情報を発信していることに警鐘を鳴らしました。自社の魅力や「らしさ」を浮かび上がらせるためには、さまざまな「舞台裏」に多角的かつ多面的に光を当てることがどれほど重要なのか。

理解が少し深まったのではないでしょうか。

前回の最後には、「舞台裏」を見える化した好例として、転職支援大手エン・ジャパンのウェブ社内報『en soku!』(エンソク)を挙げました。

◾️さまざまな関係者の心に刺さるコンテンツ

「en soku!」は前回も述べたとおり、「社内報アワード2018」(主催:ウィズワークス株式会社)において、ゴールド賞(ウェブ社内報部門)を受賞したほど、秀逸な記事を掲載しています。受賞インタビューの記事中で取り上げられた成果は、どれも広報視点で示唆に富んだものばかりでした。さまざまな関係者の心に刺さる、そんなコンテンツにあふれたウェブ社内報なのです。

ご覧になった人たちは分かるように、にぎやかな雰囲気と仕事を楽しんでいる様子が伝わってきます。ほぼ毎日記事がアップされていますし、その豊富な内容にかなり驚かれたのでは、と想像します。しかし、広報部にかなりの人数を割いているわけではないようです。
それなのに、なぜ「en soku!」は成り立っているのか。その背景として、広報部による「レポーター制度」という優れた発案がありました。広報部以外の社員から「レポーター」を募集し、200人前後がその任に就いています。彼らがその名のとおり、自らが所属する部署での出来事をレポートしているようです。

そうして運営している「en soku!」は、どんな成果をもたらしたのか。

結論を述べますと、社員はもちろんのこと内定者や報道関係者など、社員以外の関係者にも好影響を及ぼしたのです。社内報の記事でありながらも、ということです。

例えば、次のとおりです。

・社長が積極的に「en soku!」に関与
・内定者(学生)が企業風土に共感し、モチベーションが高い状態で入社
・若手社員が先輩社員をロールモデルとして認知
・退職した社員が復職
・報道関係者が「en soku!」に登場した社員を取材

確か3年ほど前、オンラインでエン・ジャパンの新規事業責任者と交流する機会がありました。その際に、この取り組みに賛辞を送ったところ、うれしそうに「手前味噌ですが、うちの社員たちは会社のことが好きなんです。だから(運営)できているんです」と即答したことが大変印象に残っています。

ウェブで発信しているままの社風だ、ということです。やはり広報の本質は、等身大でありのままの姿を発信することが重要だと再認識しました。

◾️企業に関わる登場人物たちが織りなす物語

ここまで「商品」と「採用」という二つの角度から、「舞台裏」の情報とはどんな内容なのかを例示しながら、明らかにしてきました。

近年、企業社会では「創業ストーリー」がブランディングを担うコンテンツとして、注目を浴びています。「創業ストーリー」は、まさしく「舞台裏」の情報です。創業するまでの葛藤や悩み、あるいは熱い思い、創業前後の苦労や失敗談などは人の心を揺さぶり、魅了してやまないコンテンツであることは間違いがありません。

その上で、ここで皆さんに問いたいことがあります。

企業経営におけるストーリーとは、つまり物語とは「創業ストーリー」だけでしょうか。そんなことはありません。前回までに示したとおり、社員、取引先(供給網・販売網・パートナー)、顧客という、それぞれ異なる立場の人たちが企業経営に何らかの形で関わっています。これら関係者たちは全て「企業の成長物語」における重要な登場人物たちです。
大なり小なりの違いはあるものの、確かにそれぞれに物語が存在しています。そこかしこに「舞台裏」があります。さまざまな登場人物たちによって、「企業の成長物語」は織りなされているのです。

「創業者ストーリー」を公開・発信している企業、その経営者たちはこれにとどまることなく、視野を広げ、視点を変えてみてはどうでしょうか。企業は経営者の手腕、努力だけではなく、社員、顧客、取引先など、多くの関係者たちの協力があって、初めて成長できますし、存続することもできます。チームによって、企業経営は成り立っています。もう一度、この事実と向き合うことが決定的に重要なのです。

◾️「舞台裏」に光を当ててみよう

企業経営の現場において、価値を生み出そう、価値を提供しよう、そんな思いで日々行われていることは全て「舞台裏」といえます。

私たちがある企業(=所属する社員たち)と接したり、商品・サービスを購入したりすることは氷山の一角、「表舞台」に過ぎません。どんな業種・業界であれ、どんな規模であれ、全ての企業に「舞台裏」は存在します。自社の「舞台裏」とは何のか。「舞台裏」を見つけ、光を当てることから始めてみましょう。そして、「見える化」する、つまりコンテンツとして発信していきましょう。

ここで改めて、情報発信をひもとくとはどういうことか。構成する四つの要素を再掲します。

①目的     :何のために伝えるのか。
②(主体と)対象:(誰が)誰に伝えるのか。
③情報の内容  :何を伝えるのか。
④手段     :どうやって表すのか。どうやって伝えるのか。

今回まで7回にわたって、「③情報の内容」を詳しくひもといてきました。次回は「③情報の内容」を整理してまとめながら、5回にわたり「④手段」について解き明かします。

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