第17回 ニュースルームとオウンドメディア(3)

こんにちは、荒木洋二です。
大企業が展開する広報は、ニュースルーム、オウンドメディア、SNSが主流の手段として定着しつつある、と筆者は見ています。これらをいかに組み合わせて情報を発信するのか、日夜試行錯誤しているようです。「情報」を扱っているという点で、前述の三つは共通しています。
「ニュースルームとオウンドメディア」と題した連載をお届けしています。
前回はオウンドメディアの意味や起源を確認しました。現在、注目を浴びるようになったのは、デジタルマーケティングの文脈からだったのです。
今回は、オウンドメディアに関してもう少し掘り下げます。日本の企業社会にどのように浸透していったのか。報道状況などから確認します。
◆デジタルマーケティング文脈で登場したオウンドメディア
「オウンドメディア」という用語が初めてマスメディアに登場したのは2009年、今から約15年前のことです。『映像新聞』(2009年10月5日発行)の日本アドバタイザーズ協会の活動組織であるWeb広告研究会のことを報じた記事です。同年9月に開催された、設立10周年記念フォーラムの模様を報じた記事で触れられています。
同研究会では「今後5年間のキーワードはトリプルメディア」と宣言したとしています。デジタルマーケティングにおけるキーワードがトリプルメディアであることは、筆者も確かにその頃からよく報道で見たり、実務の現場で耳にしたりしていました。
ただ、当時の『日経MJ』(2012年3月5日付け)に掲載されたフリーアナウンサーの八塩圭子氏(当時:学習院大経済学部特別客員教授、現在:東洋学園大学現代経営学部准教授)の寄稿を読むと、オウンドメディアに関しては、あくまでも企業が運営するウェブサイトとの認識にとどまっています。さほど重視されていません。
これから「鍵となるのはアーンドメディア」だとして、SNSの台頭に注目していました。『日経デジタルマーケティング』(同年12月19日付け/日経BP社)では、2013年のトレンドとして「トリプルメディアが融合する」と掲げていましたが、筆者の体感として、オウンドメディアの影は非常に薄かった、と記憶しています。
◆企業が運営する紙媒体もオウンドメディア
このようにオウンドメディアは、日本においてデジタルマーケティングの文脈で登場しています。さらにトリプルメディアから進化したPESOが2014年に現れます。「ペイドメディア」「アーンドメディア」「オウンドメディア」の3つに加え、4番目として「シェアード(Shared)メディア」が加えられます。
それぞれの頭文字からPESOと名付けられました。「ペイドメディア」は広告、「アーンドメディア」はニュースなどの報道(専門用語で「パブリシティ」)、「シェアードメディア」は生活者や企業・団体のブログやSNS、そして「オウンドメディア」は、企業自身が運営するウェブサイト、公式SNSなどのことです。
オウンドメディアを日本語で訳すと、(当連載で繰り返し述べたとおり)「自らが所有、運営する媒体」です。当然、そこには印刷媒体も含まれます。大企業では、社員向けの社内報、顧客向けの広報誌、株主向けの株主通信やアニュアルレポートなどを紙媒体で今も発行し続けています。
中小企業でも会社案内、商品パンフレット・カタログ、各種小冊子、チラシなどを紙媒体で発行しています。これらも全てオウンドメディアといえます。一部ではリアルの展示会、株主総会などもオウンドメディアとする解釈も見受けられます。
当連載では、混乱を避けるため、オウンドメディアとはあくまでもデジタルマーケティングの一環との前提で話を進めることにします。
◆情報発信領域におけるデジタル化の進展
1995年、マイクロソフト社が発売したWindows95の登場を機にインターネットが家庭にも急速に広がります。「誰もが放送局が持てる」との言説を唱える人たちも現れました。
デジタル化の進展は、企業のみならず、個人や小規模組織までが自身のメディアを持つことを可能にしました。誰もが多数を対象に情報発信できるのです。
もちろん、大企業は社内報、広報誌などの紙媒体を以前から発行しています。長い間、地道に定期的に発行し続けています。ただ、中小企業などにとっては、これら紙媒体を定期的に発行することは相当敷居が高いものです。ましてや個人ではほぼ不可能です。
紙媒体は作成後、必ず郵送や宅配を利用した「流通」が伴います。社内外の人材が作成に関わり、時間も費用もかかります。流通させるためには印刷と郵送・宅配の費用が加わります。人員面と費用面から見ても紙媒体による情報発信、情報流通を実行することは極めて非現実的でした。
しかし、インターネットの普及により、それらの制約・障壁がほぼ撤廃されました。どんな規模の組織でも、個人であっても容易に情報を受発信することができる状況が整備されたのです。特にFacebook、X、Instagram、TikTokなどのソーシャルメディアや、動画配信プラットフォームがその流れを加速させています。
次回は、「ニュースルーム前夜」の広報デジタル化の流れを確認します。
