仲間として向き合えるか:第3回 現場の声は、コストではなく競争力である

仲間として向き合えるか――サプライチェーン再設計論

第3回 危機の時代には、管理ではなく信頼が問われる

信頼のうえに立ち上がる提案力が、サプライチェーンを強くする

第1回では、下請け構造の先に仲間は生まれるのかを問い、第2回では、危機の時代には管理ではなく信頼が問われることを見てきた。では、その信頼の上に何が立ち上がるのか。私はそれが、現場から生まれる提案力だと思う。サプライチェーンの強さは、命令が末端まで届くことではない。現場の声が上がり、その声が全体の改善へとつながっていくことで、初めて本当の強さになる。

上下関係が強い取引では、現場の声はしばしば「負担の訴え」や「余計な注文」として扱われやすい。だが本来、現場の違和感や小さな不満の中には、工程改善や品質向上のヒントが埋まっている。問題は、その声が出せるかどうかである。従うことが優先される関係では、本音は細くなる。細くなった本音から、大きな提案は生まれにくい。

今回のトヨタの続報で印象的だったのは、近次期社長が求める仕入先像を「本音をぶつけてくれる」相手だと語っていたことだ。しかもそれは、空気のよい関係を意味していない。厳しいことも言い合える関係の中でしか、強さは生まれないという認識が、そこにはある。信頼とは、ただ穏やかであることではない。本音を言っても関係が切れないこと、その緊張を引き受けられることだと思う。

本音を言える関係では、現場の声は単なる不満で終わらない。
「このやり方のままでよいのか」
「ここは変えた方がいいのではないか」
という問いとして立ち上がり、やがて提案へと変わっていく。逆に、本音を言えない関係では、表面上は安定して見えても、内側では問題も知恵も蓄積されず、ただ沈黙だけが広がっていく。

ただし、提案力は声の大きさだけで生まれるものではない。提案の中身を支えるのは、各社が持つ技術の深さである。続報の中で佐藤社長は、日本の自動車産業の強みを支えているのは個社の技術力であり、各社には自社の強みの核となる技術を深く追求してほしいと語っていた。さらに、イノベーションは技術力からしか生まれないとも述べている。ここには、提案力を単なる思いつきではなく、各社固有の技術の核から生まれるものとして見る視点がある。

信頼があるから本音を言える。
本音を言えるから提案が出る。

そして、その提案を本当に価値あるものにするのは、各社が自分たちの技術の核をどこまで深く理解しているかである。提案力とは、関係の産物であると同時に、技術の産物でもある。信頼と技術。この二つがそろって初めて、現場の声は競争力へと変わる。

佐藤社長はもう一つ重要なことを語っている。生産性を上げるためには、自分で決めていない前提条件があれば、それを疑うべきだということだ。条件を決めている要因が工程の上流や下流にあるなら、それを変えることで全体の生産性が上がるかもしれない。ここで言われているのは、単なる改善案ではない。前提そのものを問い直す力である。

提案とは、いまある枠の中で少し工夫することだけではない。

なぜこの条件は固定されているのか。
本当にそうでなければならないのか。
どこを変えれば全体がもっとよくなるのか。

そう問い返せる現場こそが強い。現場の声を単なるコストとして扱う企業は、こうした問いを失っていく。だが現場の声を、全体を変える入口として受け止める企業は、改善を超えた競争力を手にしていく。

私はここで、現場の声に対する企業の見方が、そのまま将来の強さを分けるのだと思う。現場の声を「手間が増える」「面倒だ」「コストがかかる」と見るなら、提案は消えていく。だがその声を、技術の深まりや工程改善、競争力の源泉として見るなら、サプライチェーン全体の強さは確実に変わっていく。

信頼とは、声を上げやすくする土台である。
提案力とは、その土台の上に立ち上がる競争力である。
だから、現場の声はコストではない。競争力そのものなのである。

次回は、この信頼や提案力を一時的な美談で終わらせず、企業や産業の持続的な強さへ変えるには何が必要なのかを考えたい。歴史と制度は、信頼をどう支えるのか。最終回では、その点を掘り下げてみたい。

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