企業の基礎体力としてのリスクマネジメント 第4回

第4回 基礎体力は、経営の中でどう育つのか
ここまで、リスクマネジメントを「企業の基礎体力」として捉え直してきました。
第1回では、
リスクは、問題が表に現れた瞬間に突然生まれるのではなく、その前の段階から、兆しや違和感として存在していることを確認しました。
第2回では、
その基礎体力を、筋力、持久力、柔軟性、バランス、敏捷性という五つの要素に分けて整理しました。
第3回では、
それらは特別な訓練の場だけで育つのではなく、日常の会話、情報共有、判断の軸といった、平時の状態の中で少しずつ形づくられていくことを見てきました。
では、この基礎体力は、経営の中でどのように育てていけばよいのでしょうか。
まず確認しておきたいのは、基礎体力は、一度整えれば終わるものではないということです。
規程をつくる。
研修を実施する。
体制を整える。
どれも大切です。
ただ、それだけで企業の基礎体力が十分に育つわけではありません。
実際に問われるのは、そうした仕組みが日常の中でどう運用され、どのような判断や対話につながっているか、だからです。
制度があっても、現場が違和感を上げられなければ、小さな兆しは見過ごされます。
情報共有の仕組みがあっても、必要な人に届かず、次の判断につながらなければ、蓄積は起きません。
理念や方針が掲げられていても、日常の言葉や行動の中で共有されていなければ、いざというときに判断の軸にはなりません。
つまり、基礎体力を育てるとは、
何か新しい仕組みを追加することだけではなく、
すでにある仕組み、言葉、関係が、
実際に機能する状態を保ち続けることでもあります。
この意味で、リスクマネジメントは、一部門だけの仕事として閉じるものではありません。
法務、総務、管理、広報、現場、経営。
それぞれが持つ情報と感度が、どこでつながり、どのように扱われるかによって、企業全体の耐性は大きく変わります。
特に中小・中堅企業では、大企業のように細かく分業された仕組みを、そのまま持つことは難しい場合も少なくありません。
だからこそ重要になるのは、完璧な制度を最初から整えることではなく、
小さな違和感を見逃さないこと、
情報が止まらないこと、
判断の軸が共有されていること、
そして必要な場面で人が動けることです。
言い換えると、基礎体力を育てるとは、
企業が日常的に
「気づける状態」
「つなげられる状態」
「迷いすぎない状態」
を保てるようにすることだとも言えます。
そのために経営が果たす役割は小さくありません。
経営は、問題が起きた後に最終判断を下すだけではなく、平時にどのような空気を許し、どのような言葉を残し、何を見ようとしているのかによって、基礎体力の育ち方そのものに影響を与えます。
違和感を軽く扱う空気があれば、敏捷性は育ちません。
短期の効率だけが優先されれば、持久力は弱くなります。
強い立場の人の意見だけが通る状態では、バランスは崩れやすくなります。
逆に、
小さな声を拾おうとする姿勢、
情報を残して振り返ろうとする習慣、
何を守るのかを言葉にし続ける営みがあれば、
基礎体力は少しずつ育っていきます。
ここで重要なのは、基礎体力を育てることが、単なる防御ではないということです。
問題を小さくする。
崩れにくくする。
回復しやすくする。
それはもちろん大切です。
ただ、それだけではありません。
基礎体力のある企業は、変化を早く察知し、関係者との対話を通じて調整し、必要な修正を重ねながら、結果として前に進みやすくなります。
つまり、基礎体力としてのリスクマネジメントは、守るためだけのものではなく、持続的に進むための条件でもあります。
今回の4回では、リスクマネジメントを危機時の対応技術としてだけではなく、平時の企業の状態として捉え直してきました。
まだ初期的な整理ではあります。
ただ、少なくとも、何かが起きた後にだけ考えるのでは遅い、ということは共有できたのではないかと思います。
リスクマネジメントは、日常の外にある特別な仕事ではありません。
日常の中で、
どんな会話があり、
どんな情報が流れ、
どんな判断の軸が保たれているのか。
その積み重ねの中にこそ、企業の強さと脆さの両方が表れます。
だからこそ、基礎体力としてのリスクマネジメントは、経営の周辺ではなく、経営の中に置かれるべきものなのだと思います。
本記事は、RMCAジャーナルの一環として掲載しています。
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