#36 経営者は、なぜ集まるのか|第2回 

このノートの考え方については、こちらにまとめています。
ーなぜ私は「社会設計ノート」を書いているのかー

経営者は、なぜ集まるのか

― 経営者団体・コミュニティから考える関係と制度 ―

第2回 日本は「経営者団体大国」なのか

前回、私は、自分が参加してきた経営者団体や交流の場を振り返りました。

長く所属している場もあれば、すでに離れた場もあります。それでも、そこで生まれた関係は、所属していた期間とは別の時間を歩んでいました。

そうした経験から考え始めたとき、もう一つ気になったことがあります。

これほど多様な経営者団体やコミュニティが存在することは、日本に特徴的なことなのでしょうか。

地域の団体、業界の団体、経営を学ぶ場、仕事の紹介を目的とする集まり。名前を挙げ始めると、次々に思い浮かびます。

しかし、自分の身近に多くの団体があることと、日本が他国よりも多いことは、同じではありません。

その違いを確かめるために、日本の外にも目を向けてみました。

日本だけの光景ではなかった

まず分かったのは、企業や経営者が集まり、互いを支える場は、海外にも広く存在するということです。

商工会議所は、その一つです。経済協力開発機構(OECD)などが2024年に実施した調査は、65の国・地域の商工会議所を対象としています。そこでは、企業と職業訓練の仕組みをつないだり、自ら訓練を提供したりする役割が報告されています。交流の機会を設けるだけでなく、人材を育てる仕組みの一部も担っているのです。

経営者個人が学び合う場もあります。例えば、国際的な経営者組織のYPOは、継続的な学習や意見交換を掲げ、経営者同士が経験を共有する場を設けています。

地域の企業を支える組織と、経営者自身が学び、関係を築く組織。その両方が、日本の外にもあります。

少なくとも、「経営者が会社の外に集まること」を、日本だけの習慣として説明することはできません。

自分の周りに見えていた光景は、形を変えながら、ほかの社会にも存在していました。

ただし、似た名前の団体があるからといって、同じ仕組みで動いているわけでもありません。

同じ名前でも、入り方が違う

その違いが分かりやすいのが、商工会議所です。

日本の商工会議所は、商工会議所法に基づく団体ですが、会員になるかどうかは任意です。英国政府の国際比較資料でも、日本は、法律に基づく位置付けと任意加入を組み合わせた仕組みとして整理されています。

一方、ドイツの商工会議所では、法律の対象となる企業に加入義務があります。参加したい企業だけが選んで入るという仕組みとは、出発点が異なります。

米国商工会議所は、商工会議所を、企業や専門職が地域の経済や暮らしを良くするために協力する、自発的な組織として説明しています。

どの仕組みが優れているかを、ここで決めたいわけではありません。

ただ、加入が義務である場合と、自ら選んで加入する場合とでは、会員数や加入率の意味が変わります。加入率が高いことを、そのまま経営者の交流への熱心さと読み替えることはできません。

また、任意加入だからといって、会員だけの利益を追求する団体とも限りません。日本各地域の商工会議所には、会員・非会員を問わない支援や、まちづくりなど、公益に資する活動が求められています。

誰が集まっているかだけでなく、どのような仕組みで集まり、社会の中で何を担うことになっているのか。

そこまで見なければ、同じ「商工会議所」という名前でも、十分には比較できないのです。

私は最初、団体の多さに目を向けていました。しかし、こうした違いを知ると、経営者が集まることを、国民性や人付き合いの好みだけで説明するのは難しいと感じます。

その背景には、人が集まることを支え、役割を与えている仕組みがあります。

「多い」と判断する前に

では、日本には、ほかの国よりも多くの経営者団体があるのでしょうか。

今回の基礎調査では、日本が突出して多いと判断できる、条件のそろった比較資料は得られませんでした。国によって資料の時点や数える団体の範囲が異なり、そのまま数字を並べることはできなかったのです。

考えてみれば、何を一つの団体として数えるかにも、確認が必要です。

全国組織を一つと数えるのか。各地の組織も別に数えるのか。業界団体や、民間企業が運営する会員制の交流サービスまで含めるのか。

会員数を比べる場合も、企業を数えているのか、経営者個人を数えているのかをそろえなければなりません。企業数や人口の異なる国を、団体の総数だけで比較してよいのかという問題もあります。

つまり、今の段階で言えるのは、「日本は特に多いと確認できなかった」ということです。「日本は多くないと分かった」ということではありません。

もう一つ、複数の団体に同時に所属することは、日本に特徴的なのかという疑問も残りました。

私自身、いくつかの場に並行して関わってきました。そのため、団体の数よりも、異なる団体への所属が重なっていることに、日本らしさがあるのではないかとも考えました。

しかし、これについても、日本の経営者が他国より多くの団体に所属していると判断できる、比較可能な統計は、今回の調査では確認できませんでした。

自分が経験したことは、問いの出発点になります。

けれど、その経験だけで、日本全体の特徴を説明することはできません。

分からなかった部分を、印象で埋めない。そのことも、この連載では大切にしたいと思います。

数の向こうにあるもの

海外を調べれば、日本の特徴がはっきりすると思っていました。

実際には、「日本だけのことではない」と分かった部分と、「今の資料では比べられない」と分かった部分がありました。そして、同じ名前の団体でも、社会の中での位置付けが違うことが見えてきました。

その結果、最初の問いを、少し変える必要があると感じています。

なぜ、日本にはこんなに多くの団体があるのか。

その問いの前に、確かめるべきことがありました。

それぞれの団体は、何を担っているのか。

例えば、仕事の紹介を求めることと、業界全体の課題を社会に伝えることは、同じではありません。経営について率直に相談できる相手を求めることと、地域の事業者が協力する仕組みを求めることも違います。

一つの団体で、その全てが満たされるとは限らないでしょう。

異なる場があることは、単なる重複ではなく、異なる必要に応えている可能性があります。一方、役割が似ていても十分に連携していなかったり、掲げた目的と実際の活動が離れていたりする可能性もあります。

だから、団体が多いことを、そのまま豊かさとも、無駄とも判断できません。

数える前に、何が行われているのかを見る。
評価する前に、誰の、どのような必要に応えているのかを確かめる。

日本の外に目を向けたことで、私は、自分の身近にある団体も、もう一度見直したくなりました。

経営者が集まるという外形は似ていても、その場が引き受けている役割は同じではありません。

次回は、その違いを手掛かりに、経営者団体が実際に何をしているのかを考えてみたいと思います。

#00 なぜ、この記録を始めるのか

前の記事へ TOPへ