広報PRコラム#30 ブランディングの鍵は「舞台裏」にあり(2)

こんにちは、荒木洋二です。

前回述べたとおりビジョンを実現するために、当社はビジネスモデルを「請ける」から「教える」へと変えました。

人材育成とニュースルームCMS(コンテンツマネジメント・システム)を事業の柱に据えてからは、当然のことながら日々の仕事内容自体が様変わりしました。それまでは近しい信頼できる人から中小企業の経営者を紹介され、その企業を顧客としてきました。特に積極的に営業していたわけではなく、セミナーなどで広く多数の人に情報を発信することもしていませんでした。

◆400人に近い経営者などに「舞台裏」の重要性をじかに伝える

ビジネスモデルを変えることを決めた昨年3月からは、一新しました。新型コロナウイルス感染症拡大の事態に直面し、当初企画していたセミナーをウェビナーに変更、毎月2~4回、開催しました。主に成果報酬型のサービスを利用し、集客に注力しました。オンラインでの開催に切り替えたことが功を奏し、北海道や四国など、全国から経営層の人たちが参加しました。3カ月間で約200人に、自社の価値を自ら伝えること、特に「舞台裏」の情報を発信することが重要だと訴えました。

昨年11月にはオンリーストーリーが展開する決裁者マッチングサービスの利用を始めました。今まではどちらかというと筆者(現時点55歳)より年上の経営者と多く接してきたのですが、同サービスではひと回り、ふた回り若い経営者たちと出会うことができました。コロナ禍のため、全てオンラインでの面会だったため、首都圏だけでなく、名古屋、大阪、福岡など、全国の経営者とじっくり1時間にわたり対話できました。印象としては筆者の同年代や上の世代よりも広報に関する感性が高く、いい意味で予想を超える驚きがありました。

その後、同サービスで出会った経営者に紹介され、昨年末以降から今春にかけて、CEOバンク、COLABO、ラフメイカー、Linkerなど、相次いで同様のサービスを使い始めました。今年の2月からはオンリーストーリーで出会った会社に営業・マーケティング支援を委託、広報やマーケティングなど情報発信に携わる担当者、経営者たちとオンラインでの面会を繰り返しました。現在に至るまで、100人近い人たちに(オンラインで)直接、次のような広報の真髄を熱く語ってきました。

・企業の発信する公式情報は2種類である
・2種類の情報とは「表舞台」と「舞台裏」である
・「舞台裏」こそが共感を醸成できる情報である

◆「舞台裏」に共感した経営者たちとセミナー開催

オンリーストーリーのサービスでは、当社の広報に関する取り組みや「舞台裏」の重要性などに共感してくれる経営者たちとも出会うことができました。すでに3社と(筆者を講師とした)セミナー(全てオンライン)開催が次のとおり決まりました(終了したセミナー含む)。

・採用&広報セミナー「中小企業でもできる! テレビや自社メディアなどを活用した”採用ブランディングとマーケテンィング手法”とは?
  (2021年5月20日開催)共催:株式会社アドヴァンテージ

・【美容鍼灸大学 鍼灸院集客ゼミ】 鍼灸院のための広報セミナー
  (2021年4月7日、5月12日、6月9日)主催:一般社団法人日本鍼灸協会

【職能セミナー】広報とPR。ホントの、現場の話。/広報PR歴24年≪広報・PR職≫分析セミナー
  (2021年5月28日、6月18日、7月16日) 主催:株式会社Cheer

前回のコラムでも触れたとおり、「広報媒体の作り方・使い方」のオンライン・ワークショップも定期的に開催しています。昨年10月から始め、参加者は延べ100人を超えました。今月からは経営者向けのウェビナーを再開、来月も含め40人の参加が決まっています(終了分含む)。4月以降、広報指南や広報に関する企業研修も受注できています。

「真の広報」を広げ、「広報は当たり前」の企業社会を実現するエバンジェリスト(伝道者)となるため、セミナーやワークショップの開催は欠かせません。今後も継続しながら、共同開催セミナーや企業研修、広報指南など、あらゆる機会を活用し、果敢に攻めていきたいという決意を心に秘め、日々の仕事に取り組んでいます。

◆農業生産の舞台裏

筆者より若い世代の経営者とオンラインで対話する中で、新たな発見や気付きを得ることも少なくありません。

直近でいえば、今月上旬、株式会社LIBLAT identity(リブラットアイデンティティー)代表取締役の山本龍治(やまもと・りょうじ)さんとの出会いがそうでした。山本さんとはCOLABOでマッチングした人で、ひと回り若い世代の経営者です。

彼は「バーチャル農園」で農業革命を起こすというビジョンを掲げ、同社を経営しています。7期目で年商20億円を達成しています。経歴、つまり山本さんの起業するまでの舞台裏が非常に興味深いのですが、その話は山本さんと対談するなど、別の機会に譲ります。

バーチャル農園では、農業に携わっていない人たちが農業ビジネスに関われる仕組みを提供します。ビニールハウスなど農業生産の現場に定点カメラを設置し、その生育状況をネットを通じてリモート(遠隔)でリアルタイムで確認できるのです。「ひと株●●円」など、比較的手頃な価格を設定し、農業に関心のある人を共同オーナーとして募集します。安全な食材への関心が高まるにつれ、農地を借りたり、自宅の庭などで自家栽培を行っていたりする人たちも徐々に増えていると思います。しかし、時間や土地、労力、資金力などの制約で関心はありながらも取り組めていない人も一定数存在するでしょう。生産者の顔が見えるだけでなく、リモートではありますが、生産現場を自らの目でいつでもどこでも確かめることができることは安心を超えて、農産物に対する愛着も生まれてくると容易に想像できます。インターネットの普及により「舞台裏」を見える化した事業として、今後の展開に注目しています。

山本さんとの出会いを機に日経テレコンで「生産者の顔」をキーワード検索してみました。媒体は日本経済新聞系列に絞ったところ、687件の記事が抽出されました。最も古い記事は日本経済新聞(1989年3月10日)の長野地方経済面に掲載されたものでした。長野県の松本平農協が生産者の顔写真付きの牛乳を販売したというものでした。

ーーー誰がどこで作っているのか。

安心を求める生活者の要望に応じて、始まった取り組みだったのでしょう。筆者の記憶では十数年前から、スーパーなどの小売店が農産物売り場で生産者の顔写真を目立つように掲示する取り組みがあったことを覚えています。その記憶より、もっと前の89年にその萌芽があったとは意外でした。それ以降、特に01年以降は毎年20件前後、多い年で30件を超える記事が抽出されました。農産物に限らず、漁業や畜産物も同様ですし、近年、生産者や小売店だけでなく、レストランなどの飲食店でも「生産者の顔」を見せる取り組みへと広がりを見せているようです。

インターネットがここまで普及した社会状況の中で、「舞台裏」を伝える取り組みがさらに加速するとみています。

ーーー誰がどこでどうやって(どんなことにこだわって)作っているのか。

現在、大学2年生の筆者の次女が小学生のころ、土曜日夕方のテレビ番組『満天 青空レストラン』(日本テレビ)を毎週二人で見ていました。同番組では、「誰がどこで、どんなことにこだわって作っているのか」を徹底して取材しています。日本全国を飛び回って、農産物や畜産物などの育て方やその食材を使った料理まで毎週披露するのです。テレビ番組ならではの、「舞台裏」を軸とした人気番組です。

今まではテレビだからこそ作れた番組だったでしょう。

いくつか超えなければならない壁はあります。しかし、それぞれのレストランが自身のこだわりの食材について、生産者の声や働く姿、シェフと農家などとの交流を動画で伝えることができれば、生き残りの戦略として有用でなないか。山本さんが筆者とオンライン対話をする中で、ひらめいたアイデアです。

どんな業界でも、消費者向けか企業向けかに関わりなく、「舞台裏」の見える化が事業の成否に影響を与えていくことになるのではないでしょうか。筆者自身のアンテナの感度を高めて、その萌芽を見逃すことなく捉えて、当コラムで発信を続けたい。

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