広報PRコラム#47 CSRからISRへ(3)

こんにちは、荒木洋二です。

前回は、コンビニエンスストア業界が向き合うべき課題を事例に取り上げながら、「ISR(産業の社会的責任)」の必要性について触れました。日経テレコンで「日経各紙」と「全国紙」に限定して、「24時間営業 オーナー」と検索した結果を再掲します。

◆「24時間営業」に端を発したコンビニ業界の課題

「24時間営業」をめぐり、セブンイレブンのフランチャイズチェーン本部と、大阪府東大阪市に店舗を構える(当時)加盟店主(オーナー)との対立が表面化したのが、2019年2月21日のことでした。同オーナーは、人手不足を理由に深夜営業を取り止め、営業時間を7時から夜中の1時までとしました。本部は、これに対して時短営業を続けるのであれば、契約を解除し、違約金1700万円を請求すると警告しました。

この出来事が起点となり、コンビニ業界の最大の課題といえる「24時間営業」に関する報道が一気に過熱しました。前掲の報道件数からも明らかです。今まで埋もれて見えづらかった、いや覆い隠してきたともいえる重大な課題がようやく浮き彫りにされたのです。

最大手のセブンイレブンを中心に、コンビニ業界の動向を報道から概観してみましょう。

わずか1カ月の間で、国も巻き込み、怒涛の勢いで業界全体を揺るがしたことが分かります。この勢いは止まりません。4月、セブンイレブンは社長が交代する事態まで発展、公正取引委員会が「24時間営業強要」に独占禁止法の適用を検討していることが報道されました。その後、詳述はしませんが、コンビニ各社は24時間営業に対して、それぞれが柔軟な姿勢を見せるようにはなりました。

『ダイヤモンド・オンライン』(ダイヤモンド社)はコンビニ業界の実態を徹底的に取材、2020年2月、全12回にわたって、詳報しました。題して、「コンビニ 搾取の連鎖」。有料会員でないと全記事を読むことはできませんが、少しのぞいてみてほしい。

柔軟な姿勢を見せるようにはなったが、一筋縄ではいかないようです。コンビニ業界の課題はもっと根深いことを思い知らされる記事です。

◆誰かの犠牲の上に成り立つ業界構造

すべからく企業は価値を創造し、提供しなければ存続できません。そのためには、さまざまな利害関係者の存在が欠かせません。経営者、社員、顧客、取引先、パートナー、株主・金融機関、地域社会(住民・行政)、それぞれとしっかりと向き合い、信頼関係を築かなければなりません。取り巻く関係者みんなから信頼され、共感されることが最も望ましい状態です。全てのステークホルダーが当事者意識を持ち、関わり合うことが肝要です。関わる全ての人に等しく利益が分配され、共に成長し、ビジョンの実現を目指していく。これが本来あるべき企業の在り方です。関わる全ての人から自然と笑みがこぼれる、そんな企業です。

コンビニ業界はどうでしょうか。コンビニに関する報道といえば、好意的なものばかりでした。今でも大半がそうです。テレビ番組では、スイーツなど人気商品を多様な切り口で定期的に取り上げています。開発の舞台裏に密着する番組もあります。東京オリンピック・パラリンピックでは、海外のジャーナリストたちがサンドウイッチなど、その品質の高さに感嘆の声を上げていたことは記憶に新しいでしょう。生活者・顧客からも好評です。筆者の周りでもローソンのスイーツを高く評価する人、セブンイレブンの弁当や惣菜を絶賛する人がいます。時折、店員の悪ふざけ動画、いわゆる「バイトテロ」問題などで世間から批判されることはあります。これを除けば、利用する側からの評判は決して悪くありません。笑顔でいることの方が多そうです。

働く側はどうでしょうか。アルバイトがオーナーから無理難題を押し付けられる。深夜にワンオペする。FCオーナーは24時間365日の営業、長時間労働で心身をすり減らしていく。FC側が食品廃棄の費用を負担する。前述のダイヤモンド・オンラインの記事を読むと唖然とします。社員は催事があるたび、ノルマ達成のために自腹を切る。社員も決して笑えていない姿が見えてきます。

取引先はどうでしょうか。食品メーカーはプライベートブランド(PB)商品を断れず、利益も削られる。どうも笑顔は少なく、苦渋と苦悶の表情を浮かべているようです。

さらに、ご存じのようにコンビニ各社は大手商社の傘下であるため、商社に振り回されているというのです。まさに「搾取の連鎖」です。コンビニを取り巻く業界構造は複雑かつ、いびつです。しかも相当堅牢でちょっとやそっとでは変革などできないのでは、と押しつぶされるような感覚を覚えます。

しかし、誰かの犠牲の上に成り立つビジネスモデルは、やがて限界を迎えるのではないでしょうか。問題を放置すれば、衰退に向かうことは避けられません。業界全体も個別企業も破綻へとひた走ることになるでしょう。

◆業界を牽引するリーディングカンパニーの真価が問われる

産業界は、社会全体という有機体に組み込まれています。産業界自体でもエコシステム(生態系)が成り立っています。それぞれの業界は相互に関わりながら、自ら特有の役割を担っています。

では、産業界はどのような構造になっているでしょうか。簡単に分類すれば、第一次産業(農林漁業など)、第二次産業(建設業、製造業など)、第三次産業(サービス業など)の3種類です。詳細に分類するとどうなるのか。日本標準産業分類の標準コード表を参照されたい。大分類で20、中分類で99に分かれています。各産業が相互に深く関わり合いながら、エコシステムは造られているいます。

当コラム「危機のときにこそ『舞台裏』」で取り上げた、トヨタ自動車グループの不正車検問題を思い出してください。トヨタ本体は製造業です。100%子会社の販売会社や販売代理店(ディーラー)は、小売業でしょう。自動車整備会社はサービス業に分類されます。コンビニ業界も同様で、コンビニ本社は小売業、商品を納入している会社は食品メーカーなどの製造業です。ここに商社も絡んできます。商社がカバーする範囲は広く、日本特有の事業体であるといわれています。

「搾取の連鎖」とは言い得て妙で、どの業界も大差がないのではないでしょうか。それぞれの業界に多大なる影響を及ぼすリーディングカンパニーたち。いずれも日本を代表する企業です。過剰な能力を持った主体が、社会の存続を脅かすといいます。米国の経営学者で有名なピーター・F・ドラッカー博士の言葉です。

SDGs(持続可能な開発目標)がブームで終わっては意味がありません。本業と密接に関わるCSR(企業の社会的責任)をより多くの企業が実践するためにはどうすべきでしょうか。もちろん個別企業の地道な取り組みは欠かせません。ただ、より強力に推進するためには「ISR(産業の社会的責任)」を意識することがより重要になるでしょう。各業界を牽引するリーディングカンパニーたちの真価が問われるのはこれからです。

私たち一人一人が、彼らの企業姿勢、利害関係者との向き合い方やその真剣度合いを刮目しようではありませんか。

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