広報PRコラム#69 パブリシティの未来(3)
こんにちは、荒木洋二です。
前回は、パブリシティが企業経営にどのような影響を与えるのかを解説しました。報道機関としてのメディアの役割を確認しつつ、情報発信者として信用度が高いこともデータから読み解きました。
■利害関係者からの評価や信頼にプラスの影響
企業経営は利害関係者との信頼関係なくして、成立しません。筆者はかつて、建設機械大手・小松製作所の坂根正弘会長(当時、現・顧問)の講演を聴く機会に恵まれました。坂根氏は講演で「企業価値とは利害関係者との信頼の総和だ」と喝破しました。その瞬間、パブリック・リレーションズの実践が企業価値の向上には欠かせないことを確信しました。
前回示したデータからも明らかなとおり、報道機関が発信する情報は生活者から信用されています。報道機関は、第三者の立場で目利きとして企業を冷静に分析し、評価します。読者や視聴者に伝える価値がある、と判断したものしかニュースや記事にはしません。だからこそ、報道されるということは非常に価値があることです。普段から購読している新聞や雑誌であれば、読者は掲載される記事を信頼しています。最新ニュースや役立つ情報の収集、知識の習得など、有益な情報源として日々活用しています。
しかし、誰でも知っている大企業・有名企業でない限り、そう簡単には報道されません。読売新聞、朝日新聞、毎日新聞、日本経済新聞などの全国紙、週刊のビジネス誌、テレビの報道番組や情報番組で取り上げられるには、いくつも超えなければならない壁があります。中小・中堅企業、スタートアップにとっては簡単なことではありません。プレスリリース(報道関係者向け発表資料)を何本も配信したからといって、報道されるわけではありません。
自らを取り巻く関係者たちと信頼関係を築き、その関係をより深められるのか。これは企業経営にとっての死活問題といえます。企業の成長と存続に関わる決定的に重要なことです。その関係者が日頃から信頼し、購読しているメディアに、企業の新たな取り組みなどが記事として掲載されたとします。すると、その企業への評価は間違いなく高まります。信頼構築にもプラスの影響を及ぼします。経営に及ぼす影響は決して小さくありません。
まだ出会っていない、関係が始まっていない、つまり未来の利害関係者候補たちにもプラスの影響を与えます。その記事を知ることで企業の認知や評価は高まるし、一定の信頼を獲得することもできるでしょう。皆さん自身も日々、人間関係で同じ体験を重ねているはずです。仕事上で信頼している上司や顧客、取引先、あるいは親しい仲間たちから紹介された人であれば、初対面だったとしてもお互いに最低限の信頼関係はすぐに築けます。そもそも不誠実で素行の良くない人を自分には紹介しないだろう、という認識が前提としてあるからです。
■経営者の自信に 業績への貢献も体感
前述したことを踏まえつつ、筆者が当社クライアントを通して見聞したことや体験談を交え、パブリシティの成果をいくつか例示します。パブリシティは、さまざまな立場の利害関係者それぞれにプラスの影響を与えます。企業にとっての利害関係者とは次のとおりです。
・経営者
・社員・スタッフ
・顧客
・取引先・パートナー
・株主
・地域社会(役所・住民)
◆経営者
企業は法人と言われるように「人格」を法的に認められた存在です。ゆえに納税します。経営者も個人として納税します。企業と経営者は別人格です。中小企業や起業間もないスタートアップだと、同一という認識になりがちです。個人事業主のような状態であれば仕方がない面があります。しかし、本来は明確に分けるべきです。経営者も企業という法人の前では、利害関係者の一人に過ぎないという面を忘れてはなりません。
経営者の事例を二つ挙げます。
・経営コンサルティング会社の事例
同社の社長は、大学卒業後、外資系大手IT(情報通信技術)企業に入社した。数年でトップの営業成績を残した後、退職した。英国で経営コンサルティング会社を起業、その数年後、帰国して同じく経営コンサルタント会社を起業した。
起業から3年程度経過した時に筆者と知り合い、広報PR業務を支援した。同社の新たな取り組みが、日経産業新聞1面に記事として掲載された。英国から帰国後、ゼロから事業を始めて間もない頃だった。彼は、記事掲載により日本の企業社会に受け入れられた、との実感を得ることができた。この体験がその後の躍進を支える原動力の一つとなった。彼が自社の創業10周年のパーティーでそう懐古していた。
・中堅照明器具メーカーの事例
同社は広報部はあるものの、プレスリリースの発信や報道関係者との関係は皆無に近かった。一つの業界紙に広告を出稿する程度だった。当社のクライアントになったタイミングで、新製品開発案件で日本経済新聞の取材を設定した。その結果、日経産業新聞1面のトップ記事として掲載された。同日、社長に顧客の大手ハウスメーカー役員より評価する連絡が入ったという。その後、照明士を大勢擁するビジネスモデル、卓抜した照明デザイナーへのインタビュー、育休関連の福利厚生に関する取り組みなど、約1年間、ほぼ毎月1回は日経産業新聞に記事が掲載された。
同社代表は、業績が向上した際にパブリシティの成果について、売上高を10%程度上乗せさせたと評価した。業績への貢献を経営者が持つ感覚として体感していた。
■国会図書館に保存
パブリシティは、経営者に自信を与えます。掲載されるメディアが影響力の高い、良質なメディアであればあるほど、その度合いは増します。企業の取り組みを扱う記事では、たいてい社名の後に代表者の氏名が記載されます。それだけに経営者自身にとっては誇りにもつながるのです。国立国会図書館にはほぼ全ての全国紙、地方紙、経済紙、業界紙などが保存されています。つまり自分の名前が国会図書館に保存されているともいえます。そう考えると、より一層感慨深いものがあります。
筆者も当社を立ち上げてから、日経産業新聞で4回、フジサンケイビジネスアイ1回、建通新聞1回、合計6回掲載されています。最初に掲載されたのは、2008年5月、日経産業新聞でした。当時、小学生高学年だった長男に「荒木洋二社長」と書かれた記事を見せたところ、その日から筆者のことを「社長」と呼ぶようになりました。確か中学を卒業する頃まで続いたと記憶しています。
では経営者以外の利害関係者、すなわち社員や顧客、取引先などにはどんな影響を及ぼすのでしょうか。次回も筆者が当社クライアントを通して見聞したことや体験談を交え、解説を続けます。