広報PRコラム#89 「情報発信」をひもとく(4)

こんにちは、荒木洋二です。

今回は、「『情報発信』をひもとく」をテーマにした連載の第4回です。

重要なことなので繰り返し述べます。企業にとって情報発信は宿命と言えます。なぜ、そう言えるのか。企業は市場で事業を営み、社会に生きています。そんな企業が市場と社会とつながるためには、情報を発信するしかありません。情報は両者の架け橋と言えます。

情報発信をひもとくとはどういうことか。次の各要素に「分解」するということです。

①目的     :何のために伝えるのか。
②(主体と)対象:(誰が)誰に伝えるのか。
③情報の内容  :何を伝えるのか。
④手段     :どうやって表すのか。どうやって伝えるのか。

第2回では、情報発信の目的を大別すると、「知らせるため」と「選ばれるため」の二つに分類できることを端的に解説しました。前回(第3回)は、もう少し深く掘り下げて情報発信の目的をひもときました。五つの経営課題を明らかにしつつ、経営者や担当者の本音が「今よりもっと選ばれたい」という思いに集約できることを示しました。

今回は、2番目に挙げた情報発信の対象に焦点を当てます。対象そのものを明確にするために「分解」してみます。

◾️対象を関わり方で分類

広報とはPR、つまりパブリック・リレーションズの和訳です。パブリック・リレーションズとは利害関係者との良好な関係構築という概念です。
企業は、利害関係者の存在があって初めて成長し、存続できます。利害関係者とは組織を取り巻く関係者のことを指し、英語ではステークホルダーと言います。利益も損害も影響し合う、共有する者たちです。金銭的なつながりのある関係です。金銭的なつながりの有無という視点も重要なので、あえてこう表現しました。詳しくは後述します。

取り巻く関係者たちをその関わり方で分類すると、次のとおりです。

・経営者・社員(スタッフ)
・顧客(個人・法人)
・取引・提携先
・株主・金融機関

やや関わり方が異なるものとして、次の二つを加えることもあります。

・地域社会(行政・住民)※自治体と地域住民に分ける場合もある
・報道機関

前回列挙した経営課題の一つ一つは、社内の各部署が担当する業務そのものです。関わり方の違いとは、事実だけを捉えれば「どの部署と関わっているのか」という違いです。その業務で関わる相手こそが自社にとっての利害関係者です。つまり情報発信の対象は全ての利害関係者なのです。

◾️目の前にいる対象者は誰か

では、ここで皆さんに問います。

関わり方が異なる関係者それぞれに情報を発信していますか。しかも「法人」という会社組織として公式な情報を発信していますか。担当部署に、あるいはそこに所属する「個人」に任せきりにしていませんか。発信していたとしても、単なる事務的な発信(口頭やメール)だけになっていませんか。

もう一つ問います。

発信する対象、相手のことが見えていますか。目の前にいるそれぞれの利害関係者のことをちゃんと見ていますか。ちゃんと分類して見ていますか。見落としている、放置している関係者はいませんか。
何となく全体に対して、社外に対して発信していませんか。「全体」って誰のことですか。「社外」って誰を指していますか。

さまざまな会社の経営者たちとオンラインやリアルで会うことが、近年急増しています。そこで気付いたことがあります。
どの会社も何らかの形で情報を発信していますが、情報発信の対象が見えていない、ということです。整理できていないと言った方が正確かもしれません。明確に分類できないまま、あいまいなまま「全体」「社外」「不特定多数」に発信してしまっています。

皆さんの会社が関わっている(既に金銭的なつながりがある)、目の前にいる利害関係者それぞれに対して、置き去りにすることなく漏れることなく、情報を発信できているのか。一度、総点検してみる必要があるのではないでしょうか。

◾️未来の利害関係者も対象

前述したとおり、金銭的なつながりの有無も重要な視点です。一つの分類基準となりえます。

情報発信の対象を明確に分類するために、それぞれの部署が現時点で金銭的なつながりを持っていない者たちとは誰なのかを明らかにします。それは言うなれば、未来の利害関係者たちです。
前述と対比させて示すと次のとおりです。

・新卒(大学生など)・中途の求職者、後継者(ヘッドハンティング、事業承継)
・生活者(個人)・市場(法人)=自社の新規顧客対象者
・業界(供給網・販売網などの新規取引先候補者)
・投資家(個人投資家、機関投資家、金融市場)

前述のとおり、どんな企業も「今よりもっと選ばれたい」という根源的な課題を抱えています。

今より優秀な人材、今より単価の高い顧客や継続する顧客、今より先進的な取引・提携先、今より安定した株主、そんなまだ出会っていない者たちから選ばれたい、と望んでいます。
これから出会いたい、これから良好な関係を築きたい。でもまだ出会っていない者たちですから、「未来の利害関係者」というのです。
まだ出会っていない、つまり相手目線でいうと自社のことを知らない者たちです。知らないので、出会うためには知らせるしかありません。だから情報発信の目的の一つは、「知らせるため」なのです。

次回は、情報発信の対象についてもう少し簡潔に解説します。

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