【過去の人気コラム】#61 企業の魅力を考察する(1)


2019年年末から始めた「荒木洋二のPRコラム」と「聴くコラム」ですが、おかげさまで85回の配信を重ねて参りました。
2022年7月から2022年9月までは、筆者が出版に向けた執筆活動に集中させていただきたく、新規のコラムはお休みとさせていただきます。そこで再開するまでの間、過去の配信の中から人気のあったコラムを再送させていただきます。


2022年1月17日配信

こんにちは、荒木洋二です。

企業の魅力とは何でしょうか。人々はどんな企業に魅力を感じるのでしょうか。企業のどんな事実や振る舞いに魅力を感じるのでしょうか。

当コラムでは、昨年11月下旬から野中郁次郎氏が提唱する「SECI(セキ)モデル」をテーマとして取り上げました。年末まで5回にわたり、筆者の実体験と照らし合わせながら解説しました。

※参照:SECIモデル体験(1)(2)(3)(4)(5)

SECIモデルとは、組織がどのようにして新たな知識を創造するのかを明らかにした理論です。Sとは共同化(Socialization)、Eとは表出化(Externalization)、Cとは連結化(Combination)、Iとは内面化(Internalization)のことです。2020年、当社はSECIモデルを実践することで、新たな知識を「連結化」するに至りました。「表出化=見える化」した言語や図像を組み合わせることで、広報の本質とは何かを簡潔に示しました。

■ブランディングとは、わが社の魅力をみんなの心に焼き印すること

広報の本質、すなわちPR(パブリック・リレーションズ)の本質とは何でしょうか。当社は「企業ブランディング」の視座から大胆に提示しました。企業経営における二つの現在進行形である「マーケティング」と「ブランディング」を対比させることで、ブランディングが広報PRの領域であることを明らかにしたのです。

日本語だけで分かりやすく、「企業ブランディング」をひもとくと次のとおりです。

・わが社の魅力をみんなの心に焼き印する

当コラムでも何度か説明し、年頭の抱負でも触れました。ここでいう「みんな」とは、わが社を取り巻く関係者たちです。利害関係者といいます。経営者・社員に始まり、顧客、取引先・パートナー、株主、地域社会(住民・行政)のことです。報道機関を加えることもあります。

ブランドの語源をご存じでしょうか。「家畜の焼き印」です。欧州などの酪農家たちが自分の牛や豚だと識別できるように焼き印したのです。そのため、企業や商品・サービスのロゴマークをつくり、それらを広く知らせることがブランディングだと思っているビジネスパーソンも少なくありません。しかし、それは表層的な理解に過ぎません。ブランディングの本質はわが社の魅力を目の前の相手の心に焼き印することなのです。

SECIモデルでいうところの連結化として、昨年11月から少しずつ内容を編集しながら「ブランディングセミナー」を開催しています。セミナーの場以外でも新しく出会った経営者たちなどにも、その概要を伝えています。手前味噌ですが、目から鱗と言わんばかりの反応が大半で手応えを感じています。

では「わが社の魅力」、つまり企業の魅力とは一体何でしょうか。「魅力」を辞書で引くと、「人の心をひきつける力」「人の気持ちをひきつけて夢中にさせる力」と記されています。
人々はどんな企業に心をひきつけられるのでしょうか。企業のどんな事実や振る舞いが、人々の心をひきつけて夢中にさせるのでしょうか。そして、その魅力を伝えるにはどうすればいいのでしょうか。

今回から企業の魅力を数回にわたり、考察します。当コラムでも昨年、「企業の魅力って何?」をテーマに2回(3月8日「第20回」15日「第21回」)にわたり、探りました。この2回のコラムで述べた内容を踏まえつつ、次の二つのモデルを参照します。

1)魅力度ブランディングモデル

2)地域魅力創造サイクル

魅力度ブランディングモデル」とは、電通PRコンサルティング(旧電通パブリックリレーションズ)の企業広報戦略研究所が提唱するモデルです。昨年のコラムでも紹介していますが、改めて振り返ります。
「地域魅力創造サイクル」とは、東海大学文学部広報メディア科の河井孝仁教授が提唱するモデルです。河井教授の著書『「失敗」からひも解くシティプロモーション なにが「成否」をわけたのか』(第一法規刊)を新たに参照します。

1)魅力度ブランディングモデル

まず、魅力度ブランディングモデルを説明します。同研究所では、「魅力度ブランディング調査」を2016年から毎年実施しています。「生活者が企業のどのような活動やファクト(事実)に魅力を感じ、その魅力がどのように伝わっているのかを解析することを目的」にしています。調査対象は全国の20~69歳の男女計1万人の生活者(各業種ごとに500人ずつ・全20業種/各業種10社・全200社)で、調査手法はインターネットです。

企業の魅力を人的魅力、財務的魅力、商品的魅力の三つに分類しています。この3要素の複合体が企業の魅力だとしています。「人的魅力」とは、企業のリーダーや社員・職人など従業員の言動のことです。「財務的魅力」は成長戦略やリスク対応、ガバナンスなどから構成されています。「商品的魅力」とは、商品・サービスの独創性やアフターサービス、クレーム対応力などのことです。各要素12項目合計36項目の活動・ファクトがあります。ここでは企業の魅力の「3要素×6領域」を紹介します。

●人的魅力

1.リーダーシップ  2.職人のこだわり    3.職場風土 

4.アイデンティティ 5.誠実さ・信頼     6.社会共生

●財務的魅力

1.成長戦略     2.安定性・収益性    3.リスク&コンプライアンス

4.投資&財務戦略  5.市場対話・適時開示力 6.ソーシャルイシュー対応力

●商品的魅力

1.ソリューション力 2.コストパフォーマンス 3.リコメンド・時流性
4.共感       5.安全性・アフターサービス力・クレーム対応 6.独創性・革新性

2021年9月21日、魅力度ブランディング調査の第6回調査結果が発表されました。

同調査結果を見ていくうえで留意すべき点があります。同調査は、全20業種・各業種10社で全200社の企業名を挙げて調査しています。つまり、ほとんどの企業が誰でもすでにその存在を認知している業界を代表する大手・有名企業ばかりだということです。

そういう偏りがあることを踏まえつつ、次回は同調査結果から何が企業の魅力なのかを掘り下げて確認していきます。

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