Weekly Essay 内部告発者が退職 ずさんなテレビ報道とJA共済連の「人格」

2022年6月1日、改正公益通報者保護法が施行されました。公益通報とは、自分が所属する会社・組織が何らかの不正を行っていた場合、組織内の内部通報窓口や行政機関、報道機関に通報することをいいます。その組織が公益通報を理由に通報者を解雇できないし、不利益な取り扱いも禁じる法律です。詳しくは消費者庁の『公益通報ハンドブック』をご覧ください。

私が理事長を務めるNPO法人は、施行後の同年10月に内部通報制度をテーマにしたセミナーを開催しました。同法律の改正にも大きな影響を与えたオリンパスOBを迎えて、インタビュー形式で実体験を語ってもらいました。改正を機に内部通報窓口を設置した企業・組織は増えたと推測しています。しかし、形だけ整えて、実際は機能していない企業が大半なのだろうと改めて思わされる報道がありました。先週10日(木)、Yahoo!ニュースに掲載された『弁護士ドットコムニュース』の記事です。

同記事では、TBSの報道番組『news23』が内部告発者に対する配慮を著しく欠いた報道をしたため、報道後に退職に追いやられたことを問題視していました。取材源の秘匿は報道の原則です。「放送倫理・番組向上機構」(BPO)がこの原則を軽視した報道に対して審議入りを決めたことを受けて、テレビの報道番組に長年関わっていた人が記事を執筆したようです。

内部告発されたのはJA共済連(全国共済農業協同組合連合会)です。実は今回の報道に触れ、関連情報を検索して分かったこととして、JA共済連の不正に関しては1年以上前から報道が繰り返されていました。調べた限りでは最初の報道は、2022年5月24日から始まった『ダイヤモンドONLINE』(ダイヤモンド社)の特集です。同特集は同年6月9日まで8回にわたり配信されました。その後、今年に入り、『東京新聞』(2023年2月10日)『文藝春秋』(同年5月17日)と続きました。『news23』による問題報道に関しては、前述の記事より先に『現代ビジネス』(2023年7月31日)でジャーナリストの窪田新之助氏がTBSと農協を厳しく糾弾しています。

JA共済連の最新のディスクロージャー資料(『2023 DISCLOSURE JA共済連の現状』)を閲覧しました。ディスクロージャーとは情報開示のことです。つまり何事も隠さないでありのままの姿を明かすことです。それなりに洗練されたデザインを施し、184ページにわたる詳細な情報を掲載、「美辞麗句」が並んでいます。
ずいぶんと着飾っていますが、その実態はどうでしょうか。先述の報道内容が明らかにしているとおりです。外見は整っていますが、肝心の人柄、人格に大いに問題があるブラックな組織というのが偽らざる実態ではないでしょうか。慣習として長く引き継がれ、根深い体質として染み込んでいることは想像に難くありません。そういう組織文化、組織風土なのでしょう。

どんな組織も「舞台裏」を明かさない限り、信頼されないと心得るべきかもしれません。


8月7日(月) 荒木洋二のPRコラム
広報PRコラム#91 「情報発信」をひもとく(6)


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