広報PRコラム#94 「情報発信」をひもとく(9)

こんにちは、荒木洋二です。

「表舞台」と「舞台裏」の情報にはどんな特徴や違いがあるのか。前回、整理して表示しました。改めて次に再掲します。

いろいろな見方があることを理解した上で、分かりやすくするために一つの捉え方を示します。前回も述べたとおり、一つの「表舞台」に対して六つの「舞台裏」あるといえます。六つとは前後、左右、上下のことです。
「商品」という「表舞台」に対してだと、どうなるのか。まとめると次のとおりです。

・前:社員による失敗談や苦労話などの開発秘話
・後:(商品を購入した)顧客体験(個人・法人)

・左:供給網(原料・部品・装置の調達先、物流)
・右:販売網(卸売り、小売り、販売代理点、物流)

・上:事業領域に関する業界・市場の動向や課題
・下:技術(知的財産など)の根拠、社会的意義

前々回前回で前後、左右について説明しました。今回は上下について、私の見解を述べます。

◾️対談、座談会、現場レポートなどで業界の「今」に光を当てる

まず、「上」から説明します。

自社の商品をどの事業領域において展開しているのか。業界構造の中でどんな役割を担っているのか。主戦場となる市場は今後拡大傾向にあるのか、それとも縮小するのか。どんな競争環境なのか。業界全体として、どんな課題に直面しているのか。

これらのことを数字、データを活用して示すというよりは、インタビュー、対談、鼎談、座談会、レポートによって明らかにします。

例えば、どういうことなのか。

ファブレス(工場を持たない)で若年層向けの化粧品を販売しているメーカーの場合だとどうなるのか。取引先には工場を持つOEM(相手先ブランド名による製造)企業が存在し、小売店とのつながりもあるわけです。この場合、どうなるのかを次に例示します。

・商品企画部責任者インタビュー
・社長とOEM企業代表の対談
・OEM企業の開発責任者、(自社)商品企画部責任者、小売店バイヤー責任者による鼎談
・商品企画部社員とOEM先企業社員による座談会
・業界紙『週刊粧業オンライン』編集長インタビュー
・業界団体「日本化粧品工業会」のセミナー・イベントレポート
国内外の化粧品関連見本市・展示会レポート

単独のインタビューと違い、対談(二人)、鼎談(3人)、座談会(4人以上)ではそれぞれの立場からの発言や対話により、化学反応が起こり、予想しなかった情報が浮き彫りにされることもあります。業界紙の編集長は、当然のことながら業界に精通しています。業界が直面する課題、将来展望などをインタビューすることで、非常に生々しい(リアルな)情報を引き出すことができるでしょう。
セミナー、展示会、見本市などが開催されていれば、現場に自ら足を運びましょう。写真や動画で撮影したり、講演者や出展者に取材したりすることで、業界における最前線の模様を臨場感が伝わるレポートとして記事にできるでしょう。

業界の「今」に光を当てることで、商品を取り巻く「舞台裏」が見えてくるのです。インタビュー、対談、鼎談、座談会、現場レポートなど、あらゆる機会を設け、機会を捉えて魅力を「見える化」するのです。

◾️組織の今のありのままの姿を正しく伝える

ところで「ファクトブック」という言葉を聞いたことがありますか。広報PR業界では、報道関係者向け基礎資料のことをファクトブックといいます。要は企業が「表舞台」の情報を発信する際に、活用する媒体の一つです。カタカナ・ビジネス用語で「コーポレートプロファイル」ともいいます。記載されている内容からいえば、「会社概要」とほぼ同じと考えて間違いありません。コーポレートサイトに掲載している情報です。

当社が主催する講座の中では、ファクトブックのことを「組織の今のありのままの姿を正しく伝える資料」と説明しています。ファクトブックは主に「表舞台」の情報を伝える媒体です。

(1)どんな企業なのか
(2)どんな事業を営んでいるのか
(3)どんな環境で生きているのか

上記三つの部分で構成されています。

ファクト、つまり事実を正しく伝えるのですから、数字が非常に重要です。前述の「上」はまさしく(3)のことを指します。前述した内容との比較でいえば、数字を重視する点が違います。ファクトブックでは、社会の変化、市場動向、業界課題に関してさまざまな調査結果から引用し、必要な情報の全てを数字で掲載します。「上」では、その表れた数字の背景、そこに関わる人々の思いなどの「舞台裏」を明らかにするということです。

同じくファクトブックの(2)の中核を占めるのが、コア・コンピタンス(競争優位の源泉・核)に関する解説です。実験・研究結果などのデータを駆使して、自社技術や商品の優位性を明示します。ファクトブックで伝える情報は「表舞台」であり、つまり数字を重視します。
しかし、「表舞台」の情報は認知と理解を獲得できても、信頼や共感を醸成するには至りません。数字だけでは「選ばれる」ことにつながりません。ですから、ここでも「舞台裏」の情報が重要な意味を持ちます。

「上下」の「下」とは技術(知的財産など)の社会的意義のことです。どんな社会的意義があるのかを浮き彫りにするのです。

◾️専門家へのインタビューや対談で社会的意義を浮き彫りにする

どうすれば浮き彫りにできるのか。主に二つあります。

一つは、自社が関わる事業領域に近しい分野の研究者(大学教授)にインタビューします。この研究分野はどんな歴史があり、どんな過程を経て発展してきたのか。今まで社会的に意味のある貢献をどんなふうに成し得てきたのか。インタビューにより、技術の根本を明らかにするよう努めるのです。技術に明るい社長であれば、社長との対談でもいいかもしれません。もちろん技術責任者との対談でも構いません。

もう一つは、技術そのものを一般人でも理解できるように分かりやすく解説します。専門用語ばかりが並ぶと、多くの人はどうしても苦手意識が先行し、読むことを諦めてしまいます。それでは価値も魅力も伝わりません。平易な言葉を使い、どんな技術かだけではなく、どんな意義があるのかを実例を挙げながら解説するのです。

このように「商品」一つをとっても前後、左右、上下という六つの側面から「舞台裏」を見える化できます。商品そのものの機能・仕様を伝えるだけでは十分ではありません。多面的な見方、捉え方がどれほど「選ぶ」という意思決定に影響を及ぼすのかが理解できたのではないでしょうか。

次回は角度を変え、「採用」を切り口に深掘りします。何が採用における「表舞台」なのか、何が「舞台裏」なのかを解き明かします。

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