広報PRコラム#95 「情報発信」をひもとく(10)

こんにちは、荒木洋二です。

前回まで3回にわたり、「舞台裏」の情報とは何のかを「商品」を題材に解き明かしました。商品の場合、前後、左右、上下という六つの側面から「舞台裏」を見える化できることを例示しました。多面的に光を当てることで多様な魅力が浮き彫りにされる、ということが理解できたのではないでしょうか。

今回は別の角度、「採用」を切り口にどんな「舞台裏」の情報があるのかを明らかにします。

◾️外的キャリア(=表舞台)と内的キャリア(=舞台裏)

当ニュースルームには「Weekly Essay」というコーナーがあります。今年の7月25日、同コーナーで採用における「表舞台」と「舞台裏」に関して言及しました。

私は、同月21日、当社も出展社となっているオンライン展示会「未来経営EXPO」に参加しました。その時のことを振り返り、次のように述べました。再掲します。

16時に同展示会に入室し、最初に立ち寄ったブースが採用ブランディングを手掛ける岡本陽子さん(株式会社fanfare代表取締役)のブースでした。
受講していて共感できたことがあります。どういうことか。
岡本さんが語った内容は、会社側も求職者側も「外的キャリア」だけで判断していはいけない、より重要なのは「内的キャリア」だ、というものでした。参加後、「外的キャリア 内的キャリア」と検索してみると、採用の世界では一般的に用いられているようです。外的キャリアは職種、職位、技能、実績、年収など、客観的に把握できる経歴を指すそうです。学生であれば、学歴に当たるものでエントリーシートや履歴書に記載する内容です。内的キャリアは人柄や価値観など内面に関するものです。
岡本さんがさらに一歩踏み込んで強調していたことがあります。求職者側が会社を見る際にも同様のことがいえるというものでした。就活・転職サイトに掲載されている、会社概要、つまり所在地、沿革、代表者プロフィール、事業内容、雇用環境などという「外的部分」だけでなく、会社にどんな人が働いているのか、どんなことに働きがいを感じているのか、どんな社風(組織文化)なのか、といった「内的部分」までしっかりと確認する必要があるというのです。これは非常に共感できました。
なぜなのか。当社でいうところの「表舞台=外的キャリア」、「舞台裏=内的キャリア」だからです。

3年近く前、就活を控えた学生たちに広報のことを教える機会に恵まれました。その際に企業経営の「舞台裏」、ありのままの姿を等身大で伝えることがどれほど重要なのかを力説しました。受講後のアンケートで、一人の学生が自分自身の就活体験と照らし合わせて、得心していました。就活サイトなどに掲載されている「表舞台」だけでなく、インターン体験やさらに深い情報など「舞台裏」まで確認している、というのです。

岡本さんは、就活・転職サイトでの掲載だけで満足せずに、採用ランディングページで働く人の生の声など会社の魅力を積極的に発信する大切さを説いていました。

◾️企業社会に急増するランディングページ

要は採用の現場でも「舞台裏」の情報が鍵を握る、ということです。

近年、日本の企業社会では、商品やサービスだけでなく、採用においてもLP(ランディングページ)が急速に広がっています。

そもそもランディングページ(Landing Page)とは何でしょうか。朝日インタラクティブ(朝日新聞社)が運営するオンラインマガジン『ツギノジダイ』に掲載された齊田智理氏の説明が分かりやすいので、引用します。
「訪問者がサイトに着地(land)するページというイメージから、WEBサイトの訪問者が外部からのそのサイトにやってくる際に最初に開くことになるページ」(原文のママ)です。「WEBを使ったマーケティングにおいては主に縦長で一枚完結型のページ」のことを指すのが一般的なようです。

コーポレート(企業)サイトには、会社に関するありとあらゆる事実が掲載されています。そのため、訴求したい、売りたい商品・サービスがあった場合、同サイトの中の商品・サービスページに訪問してもらっても必ずしも情報量が十分とはいえない場合があります。利用者のサイト内における動線を考えても、必要な情報に関して一覧できなかったり、余り関係のないページをクリックしてしまったりするなど、何かと不便で不親切な構造となってしまいます。
そこで「一枚完結型」のLPを商品・サービスごとに立ち上げ、バナー広告、SEO(検索エンジン最適化)広告、SNS(ネット交流サービス)広告の最初のリンク先として設定することが主流となりました。

◾️着飾り過ぎる採用LP

同様の動きが特に新卒採用の現場にも現れてきた、というわけです。就活・転職サイトへの情報掲載だけでなく、自社独自の採用LP立ち上げを提案する事業者も近年急増しています。いずれの事業者も、募集要項などの「表舞台」の情報だけでなく、経営者からのメッセージに始まり、新入社員など若手社員の生の声など、「舞台裏」の情報も掲載するという構成にしています。

しかし、あえてここで苦言というか進言したいことがあります。

ほとんどの採用LPはよそ行きの姿で着飾り過ぎています。いかにも採用LPのために特別に制作しました(事実そうなのですが)、という雰囲気がむんむんたちこめています。およそ普段の様子を表しているとは言い難いものです。
着飾り過ぎることは実はリスクなのです。実態と乖離していればいるほど、採用後の離職率アップに直結します。しかも更新頻度も少な過ぎます。よくて1年に1回、全体をリニューアルするくらいでしょう。場合によってはインタビューなど3、4年そのままで何も変えないことも多いと見受けられます。
洗練されたデザイン、(プロによる撮影であろう)さわやかでまぶしいばかりの人物写真など、見た目、外見を整えることは疑いなく重要です。しかし、それにも程度があります。
組織文化、組織風土、社風などをありのまま表しているかどうかが最も重要なのです。今の採用LPは普段の姿とは言えない、つまり等身大の姿を発信していません。発信している情報が「舞台裏」ではないのです。これでは意味がありません。

次回は、採用において伝えるべきは一体どんな「舞台裏」の情報なのかを解き明かします。商品同様、さまざまな側面から光を当てます。

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