広報PRコラム#99 「情報発信」をひもとく(14)

こんにちは、荒木洋二です。

前回から情報発信を構成する4要素の最後、「④手段」に関する解説を始めました。「手段」は戦術だからこそ、複雑な要素がいくつも絡み合っています。複雑なことを分かりやすくするために、関係がある要素ごとに分解し、整理しながら進めたいと思います。

前回述べたとおり、手段は主に次の二つに分かれます。

・表現手段:どうやって「見える化」するのか=どうやってコンテンツを作るのか
・伝達手段:どうやって伝えるのか=どうやって(コンテンツを)デリバリーするのか

この二つをどう組み合わせるのか。それぞれの手段も複数ありますから、その組み合わせ方が情報発信の成否に小さくない影響を及ぼします。

前回の最後に、情報発信における3原則について触れました。最適な組み合わせ方を見つけられるかどうかは、この3原則をどこまで理解できるかに懸かっているといえます。三つの原則に基づきそれぞれの要素を分解することで、複雑に思えた情報発信の手段に光明を見いだすことができます。

◾️質・量・間

情報発信における3原則とは何か。それは「質」と「量」と「間」の三つです。

(1)質:コンテンツの品質(音・文字・映像・図解など)
(2)量:情報量(文章・映像などの長さ)
(3)間:いつ伝えるのか(時間・瞬間) どこで伝えるのか(空間・場所) 

情報の受け手たちがどんな状況に身を置いているのか、どんな(心身)状態なのか。情報発信する前提として、その状況と状態を把握する、あるいは想定することが決定的に重要なのです。明確に把握できれば、ある程度想定できれば、質、量、間の三つをどう組み合わせることが受け手にとって最適なのかが判断できるし、決められます。

3原則を一つ一つ概観します。

(1)質
コンテンツの質は表現手段やその技術力、スキルに左右されます。上を目指せばきりがありませんが、情報の受け手に伝わなければ意味がありませんから、やはり一定のレベルは身に付けておくべきでしょう。

自社における情報発信を担う、広告・宣伝といったマーケティング部門、採用を担う人事部門、広報部門の社員たちが必要な能力を習得できるよう、会社として学習の機会を提供すべきと考えます。文章表現、画像・映像の撮影・編集、図解作成、それぞれが現場で必要な能力を段階的に習得できる体制構築は欠かせません。

その上でどこまでを自社内で行い、どの領域を外部の専門事業者などに委託するのか。つまり内製化と外部委託のバランスをどうするのか、という問題は経営者が頭を悩ませることの一つではないでしょうか。
インターネットが情報発信の主戦場となった今日において、紙媒体やDVDなどの映像記録媒体が主流だった時代より、画質は問われなくなりました。自社の人材だけで対応できる範囲は確実に広がっています。

音声、文章、画像・映像、図解などをどう組み合わせると、情報の受け手に伝わるのか。情報発信に携わる者たちはどんな立場であれ、この問いを発し続けることを怠ってはならないし、忘れてはなりません。

◾️受け手の状況と状態、受け手との関わりの深度

(2)量
一つのコンテンツにおける文章の長さ、一文の文字数、映像の長さ、一つの媒体に収める情報量などをどうするのか。
前述したとおり、紙媒体や映像記録媒体が主流だった時代、情報量には必ず制限がありました。ページ数、記録媒体の容量は決められた一定の範囲内に収めるしかありませんでした。インターネットが主流となったことである意味で制限が撤廃され、無制限になったともいえます。

とはいえ、伝えたいことが伝わってこその情報発信です。情報の受け手が知りたいことを伝えてこその情報発信です。となると、情報の受け手の状況や状態、自社との関わりの深度に合わせて情報量を変えるべきでしょう。情報量をどの程度にするかで伝達手段をどうするかも変わってきます。

(3)間
「時間・空間」も「情報量」と同様に、伝達手段を決定付ける要因といえます。情報の受け手がいつどこで情報を受け取るのか。いつどこでどんな状態でコンテンツを読み、聴取し、視聴するのか。これらのことをどう想定してコンテンツを作るのか。
例えば、次の状況ではどんなコンテンツを提供すればいいのか、ということです。

・通勤や移動などの電車内
・オフィスや自宅での仕事中、パソコンによる作業中
・仕事の空き時間
・自宅でくつろいでいる時間

映像がいいのか、文章がいいのか。映像であれ文章であれ、長さは長くした方がいいのか、短くした方がいいのか。接点を増やすことを主眼として、軽く触れる程度で短く済ませるのか。より深く理解してもらうために、じっくり視聴させたり、読ませたりするのか。

情報の受け手の状況や状態、自社との関わりの深度に合わせて使い分けたり、組み合わせたりすることが大切なのです。

◾️企業社会にはびこる手段先行の情報発信

情報発信における三つの原則の中で、伝達手段の選択・決定に影響を与えるのが「量」と「間」であると前述しました。それによって向き不向き、合う合わないがあるからです。

インターネットの普及と技術革新により、伝達手段は驚くほど増えました。インターネットという巨大な社会インフラを通した情報伝達は、今も進化と変化を続けています。

しかし、その一方で危惧すべき状況が企業社会を覆っています。中小・中堅企業やスタートアップの多くが、目新しい伝達手段に振り回されてしまっています。これら企業は、情報発信を担う部門や人材が大企業に比べて圧倒的に不足しています。企業における情報発信に関して、必要な一定の知識を持ち合わせている人材がほとんどいない、と予想します。

ゆえにSNSを筆頭に手段ありきで情報発信に取り組んでしまっています。手段先行で目的も対象も不明確なまま発信しています。となると、内容も的外れだったりお門違いだったりします。

情報発信を構成する四つの要素に立ち返らなければ、不毛の戦いに終始するだけということは火を見るより明らかです。

次回は伝達手段について掘り下げていきます。

前の記事へ 次の記事へ