広報PRコラム#71 パブリシティの未来(5)
こんにちは、荒木洋二です。
パブリシティは企業経営にとってプラスの影響を与えます。企業の成長と存続には、利害関係者の存在が欠かせません。前々回では経営者、前回は社員・スタッフや顧客にどんな影響を与えるのかを筆者の体験を実例に示してみました。
■ベンチャーキャピタルに好評、株価上昇も
今回は、株主や報道関係者にどんな影響を与えるのかを確認しましょう。まず株主への影響を見てみましょう。
◆株主
小規模事業者を含む中小企業の場合、株主は創業者かつ経営者の一人だけであることも少なくありません。この場合、パブリシティの成果は当然前々回で示した経営者と同じです。
中小企業でも創業者やその家族、親族で構成される企業も少なくないでしょう。この場合、社内で経営陣や社員として働いているのであれば、誇り、働きがい、やる気などの向上につながります。経営に関与したり、社内で働いたりしていない場合でも、経営者同様に誇らしい気持ちを抱くことでしょう。
株式公開を目指す企業であれば、創業者や創業メンバー数人、ベンチャーキャピタル(VC)、資本提携先企業などで構成されています。上場企業であれば、さらに社員、取引先が加わったり、機関投資家、一般投資家が加わったりします。
実例を二つ紹介します。
・株式公開を目指すIT関連企業の事例
VCから出資されているIT(情報通信技術)関連の未上場企業。日経産業新聞に記事が掲載された際、VCの担当者がその記事を提携先や顧客の開拓の一環として、積極的に関係者に配布。出資先企業が評価されていることを好意的に捉え、その事実を自ら率先して周囲に伝えていた。
・東証マザーズ上場企業の事例
東証マザーズに上場するウェブサービス企業。日本経済新聞の企業担当の記者から取材を受け、同社の新たな取り組みが同紙夕刊に掲載。その報道が株式市場で好意的に捉えられ、株価が上昇した。公開企業の場合、市場での株売買が頻繁に行われるため、報道がプラスにもマイナスにも影響を与えることが一般的に知られている。同社の場合、プラスの影響を与えた実例だ。
■業界紙、産業紙の威力と日経テレコン
次に報道機関への影響を見てみましょう。パブリシティは、実は報道機関にとって相互にプラスの影響を及ぼすのです。
◆報道機関
大企業や有名企業、急成長する一部スタートアップは、地上波テレビや全国紙、日本経済新聞、週刊ダイヤモンドなど、メジャーなメディアでたびたび報道されます。そんな情報に何度も触れ、華やかな印象を抱くビジネスパーソンは少なくありません。
そんな背景もあり、広報に取り組んでいない企業、あるいは慣れていない企業は得てして業界紙を軽んじがちです。日経産業新聞、日経MJなどの経済産業紙も同様の扱いを受けやすいのも事実です。
業界紙ではベテランの記者が取材に当たることが少なくありません。ベテラン記者であれば、各企業との関係も良好であり、業界構造に詳しく、業界のさまざまな情報にも精通しています。それは大手メディアをしのぐほどです。広報担当者にとって、自社の事業領域にかかわる業界紙と良好な関係を築くことは決定的に重要です。そのことを忘れてはなりません。
・『がっちりマンデー』で重宝される業界紙
日曜朝の人気番組の一つとして有名なのが、TBSの『がっちりマンデー』です。ご覧になっている読者も多いでしょう。同番組では定期的に業界紙の編集長をスタジオに招いたり、インタビューしたりしています。業界に誰よりも精通しているともいえる彼らの話は、非常に興味深く示唆に富んでいます。いくつかタイトルと登場した業界紙を紹介します。
「せま〜い業界新聞の記者が選ぶ! 今年上半期のNo.1ニュース! かまぼこも駅も!」
(2013年7月7日放送)
『月刊食品工場長』『輸送新聞』『水産煉製品新聞』
「業界新聞の記者が選ぶ!儲かる最先端ニュース・・・はまだあった!」
(2015年7月12日放送)
『山梨研磨宝飾新聞』『朝雲新聞』『サッシタイムス』『エアゾール&受託製造産業新聞』
「業界新聞の記者に聞いた! せまい業界トップニュース! エグく儲かる謎のアジア酒場急増中! 飲んじゃうカラクリが…」
(2017年11月26日放送)
『ブライダル産業新聞』『月刊食品工場長』『月刊食堂』『月刊総務』『月刊食品包装』『LBM(ランドリービジネスマガジン)』
最近では、昨年5月30日放送回には『月刊食堂』の通山茂之編集長が登場しています。同編集長は、その前年には6月と12月の2回にわたり出演しています。
こうして見てみると、業界紙の威力はすさまじく、決して侮れないことが再確認できます。
経済産業紙も同様で侮ってはいけません。日経産業新聞も日経MJも発行部数は全国紙と比較すると、一桁違います。しかし、業界紙と同じく購読者は企業です。企業内、オフィス内で回覧されています。
筆者が直接見聞した2社の事例を紹介します。
・全国展開する探偵会社の事例
全国展開する探偵会社の記事が日経MJで掲載された。探偵の調査力を生かし、高齢者見守り事業に参入するという内容だ。掲載日の朝早く、同社の広報担当者の電話に着信があった。TBSの平日昼の情報番組『ひるおび!』からだった。その日の同番組で掲載記事を題材とするニュースが流れた。
テレビの情報番組にとって、業界紙や経済産業紙の記事は重要な情報源です。そのチェックには余念がありません。
・中堅照明器具メーカーの事例
前々回も紹介した同社はたびたび日経産業新聞に掲載された。その後、テレビ東京の経済報道番組『ワールドビジネスサテライト』の冒頭で流れたLED照明の特集で報道された。大手企業に混じって中堅企業の同社がトップで紹介された。日経産業新聞での掲載が信頼につながり、テレビ報道に結び付いたといえる。
日経テレコンをご存じでしょうか。日本経済新聞社が運営する新聞・雑誌記事のデータベースサービスです。報道機関や大手企業も利用しています。
報道機関が知名度の低い企業をニュースで取り扱おうとする場合、自社の記事データベースだけでなく日経テレコンで社名を検索し、報道された実績を確認します。報道された事実を確認できれば、安心し信頼して、自らのメディアでも報道するでしょう。
■テレビ報道の連鎖
テレビ局では他局の報道もチェックしており、報道が連鎖することがあります。前述の探偵会社もそうでした。『ひるおび!』で報道されたのが12月下旬でした。その後、年が明けた2月にテレビ東京の『夕方サテライト』でも紹介されました。もちろん日経MJが日本経済新聞社の媒体であり、テレビ東京と日本経済新聞社の関係が分かれば、当然といえるかもしれません。しかし、すぐに報道するのではなく、一定期間の経過後、報道されたのです。TBSでの報道を明らかに意識したといえるでしょう。
当社がPRを担当したベンチャー企業が、持ち運びできる太陽光発電機を開発した際も同じ現象が起こりました。夕方の報道番組での報道後、他局の夜の報道番組でニュースが流れました。
マスメディアは領域や形態が異なっていても、たとえ競合であったとしても相互に信頼し合っています。パブリシティは相互に影響し合う、相乗効果を発揮することがあるということです。
次回はパブリシティの成果として、業界紙に光を当てます。業界紙の影響力を改めて解説しながら、今回触れることができなかったパブリシティの「わな」、プレスリリースの「わな」というテーマにも言及します。