広報PRコラム#103 「情報発信」をひもとく(18)
こんにちは、荒木洋二です。
当コラムを1年ぶりに再開したのが、今年の7月初旬でした。それから「『情報発信』をひもとく」をテーマに17回にわたり、書き続けてきました。当テーマの連載も残すところ、今回を含めてあと2回です。
情報発信は次のとおり、四つの要素で構成されています。
①目的 :何のために伝えるのか。
②(主体と)対象:(誰が)誰に伝えるのか。
③情報の内容 :何を伝えるのか。
④手段 :どうやって表すのか。どうやって伝えるのか。
前回までで、四つ目の「手段」に関してひと通りの解説を終えたところです。今回は二つの視点から「手段」を改めて整理してみます。「情報発信」に関する理解が深まるに違いありません。
◾️プルとプッシュの違いとは
当連載「『情報発信』をひもとく(16)」で、電子媒体の分類として掲載した図表を(一部)再掲します。
プル型とプッシュ型という分類方法は、相手との関わり方に着目したものです。これが一つ目の視点です。
プル型では、相手の能動的な行動をどう促すのかが問われます。相手自らが進んで情報を探す行動において、その動線にどう絡んでいけるのか。もちろん複数の動線があるでしょう。自社ウェブサイト、LPへの誘導としては、ネット上の広告、SEO(検索エンジン最適化)などを駆使するのが一般的です。最近では印刷媒体、交通広告などにQRコードを表示し、誘引する方法も広がっています。
プッシュ型では、受動的な姿勢の相手にどう情報を届けるのかが問われます。企業側の積極的な情報発信が決定的に重要なことは言うまでもないでしょう。相手のメールアドレスを取得できている場合、メールマガジンが最も一般的なプッシュ型メディアです。
メールアドレスを取得できていなくても公式SNSで友達となるなど、そのプラットフォーム上でつながっていれば、接点を持つことができます。記事を投稿するだけで、目に触れる機会が確実に増えます。公式LINEでも同様です。ユーチューブなどの動画チャンネルも登録してもらえれば、動画を公開するたびに接触可能です。
◾️ストックとフローを分ける基準
前回の最後に、ストック型とフロー型という分類に関して言及しました。この分類は相手からどう見えるのか、どう捉えられるのか、という視点から分けています。これが二つ目の視点です。
実際には以下のとおり分類できます。
時折、公式SNSや動画チャンネルは自社の情報のみを蓄積できるからストック型ではないか、という質問を受けることがあります。前述したことを繰り返しますと、相手からどう見えるのか、どう捉えられるのかが分類の基準なのです。
となると、メールマガジンや公式SNS・動画チャンネルはどう捉えられるのか、ということです。
自分自身が情報の受け手だった場合を想像すると、解答は自ずと導き出されます。メールマガジンは、メールボックスに届く大量の情報の中の一つとして、自分のパソコンやスマートフォンの画面上を流れていきます。SNSも動画チャンネルも同様です。あふれんばかりの大量の情報の中の一つとして流れていってしまいます。流れていくので「フロー型」というのです。
受け身だからプッシュするしかありません。プッシュは相手のプラットフォーム上に割り込んでいくようなものなので、フローにならざるを得ないのです。
このストック型メディアとフロー型メディアをどう組み合わせるのか、どう連携させていくのか。大企業の広報に携わる人たちは、日々創意工夫、腐心しながら最適解を見いだそうと奮闘しているというわけです。
◾️最も重要な役割を担うニュースルーム
情報発信とは、最終的には「選ばれ続ける」ために行うものです。選ぶ理由、選び続ける理由を相手に与えることがどれほど重要なのか。「③情報の内容」において、その理由となるのが「舞台裏」の情報であることを詳説しました。
現在、米国から日本へと輸入される形で広がりを見せているのが、「ニュースルーム」です。まだ一部の先進的な大企業が取り組み始めているに過ぎませんが、必ずや企業広報、情報発信の主流となるに違いありません。世界も日本も広報のDX(デジタル・トランスフォーメーション)化はニュースルームが牽引していく、と私は見ています。
ニュースルームとは、「舞台裏」の情報を集約・蓄積する本拠地といえます。ストック型メディアの本命はニュースルームなのです。
広く速く情報を届けることができるのが、フロー型メディアです。公式SNSや動画チャンネルはその役割を担っています。比較的容易に接触できる、接点を持てる点では非常に優れています。まるで「飛び道具」のようです。
そこで情報に触れた相手が非常に高い関心を持った、とします。彼らは情報発信の主体である企業のことをもっと詳しく知りたい、もっと深く関わりたい、と思います。そして、当然、次の行動を起こそうとするでしょう。
そんな時、どうすればいいのか。どこにつなげばいいのか。答えは簡単です。人々の心を魅了できるコンテンツが蓄積されている、つまりストックされているニュースルームへと導くのです。ニュースルームには、選ぶ理由、選び続ける理由があふれています。
次回は「『情報発信』をひもとく」の最終回として全体を振り返ります。