【ポッドキャスト #09】そもそも「広報」って何!? 誤解・勘違いされたままの「広報」の今を憂う
「広報とはマスメディアで報道されるための活動」「広報と広告の違いを意識したことはない」などの声が企業の現場でよく聞かれます。
他方、自治体では、どんな小さな市でも広報誌を市内の全世帯に配布しています。
本来の広報とは何かを荒木と濱口が語り合います。
企業社会における広報に対する認識の問題点と、本来の広報の意味や役割を考察する
荒木: おはようございます。今日も朝早くから、『広報オタ倶楽部』を始めてまいりましょう。よろしくお願いします。
濱口: おはようございます。よろしくお願いします。
荒木: 濱口さん、最近、広報周りのことで気になっていることはありますか。
濱口: 某団体の広報案件がありましたね。あれは、ひどかったです。
荒木: そうでしたね。ある団体が広報(業務を外部委託)に関する仕事(コンペ)のプレゼンをする機会があるんですよね? そこの場にいた広報担当者が、広報のことを理解していなかった、という件ですね。
濱口: 何も分かっていなかったですね。
荒木: 例えば?
濱口: プレスリリースやニュースリリースのことも分かっていなかったです。いろいろな企業に当たって企画を公募されていたんですが、「広報は、タレントさんを使って、CMなどの動画を作ってテレビやネットに流すものだ」と認識されていました。その認識は、非常によろしくないなと感じたんです。
荒木: そうですね。プロモーション活動の一環として、テレビCM(最近は、ウェブでもプロモーションビデオ)を作成し、配信するケースもあるし、そういう業者が増えているのは確か。だけど、それ自体が広報だと思っているということだね。
濱口: そうですよね。集まっている他の企業も、そういうもの(テレビCMなど)を作るというように認識されていました。そして、某団体の過去の実績を見ても、同じことを繰り返していましたね。例えば、「タレントの使用期限が切れるから、同タレントの動画は使用できなくなる。だから、また同じものを作る」、その繰り返しです。
荒木: 本来、「認知=知ってもらう」ことは、広報の役割ではない。よく「認知」について言われることは、「知らないということは、存在していないに等しい」ということ。知ってもらわない限りは、選択肢に上がらないからね。
多くの人たちに広く知ってもらうためには、広告(今までは特にマスメディアの広告)を使うのが一番手っ取り早いし、当然、認知もされる。われわれも、有名なメーカーの宣伝は(自動車や飲食、食料品、日用品など何に関しても)CMで見ている。普段の生活でも、店頭に行って実際に見ることもある。そうすると商品名とか会社名が当たり前ように日常生活にあふれ、刷り込まれていくことがある。そういう意味では、認知を獲得することは、やっぱり広告の役割じゃないかと思う。
濱口: そうですね。
荒木: 広報というと、どうしてもマスメディアのかたがたが発信するニュースとして、テレビや新聞、雑誌(ネットニュースも含む)に取り上げられることだと思っている。そこが、ややこしいなと感じている。
濱口: そう思っていますね。企業も、同じように認識されていることが多いなと改めて思いました。
荒木: どうしても、マスメディアでニュースとして取り上げられるとなると、「認知を獲得できる」と思ってしまう。そうなると、「広報は認知獲得のためにやるんだ」となる。
某団体でも、「認知獲得、認知率向上」というテーマが示されていたから、そういう認識になってしまう。「広報」という言葉自体も分かりづらいから、「広告」との違いも、いまだに分からない人がいる。
濱口さんも以前の『オタ倶楽部』放送時に、「2度目に会う人へ紹介される時、『広告代理店のかたです』と言われてしまう」と言っていたよね。
濱口: そうなんですよ。
荒木: どうしても(広報は)マスメディアでニュースに取り上げられること、となりがち。
広報の認識に対して、企業と自治体の違いが生まれた背景
濱口: 「広報」という言葉が死んでいたり、言葉の意味合いが広告代理店のような認識でいたりする場合が多いです。本当の意味での「広報」は、どんどん埋もれていっているな、という印象です。
荒木: そうですね。一方、自治体(いわゆる市役所とか県など)は、当然、広報活動を行っていて、「広報誌」というものを出している。また、自治体では、「シティプロモーション」として広報を含めた取り組みを行っている。
自治体は(各自治体によっては)、CM(制作含め)を使うのは大変なこと。だけど、ちゃんと市民たちに、市役所は何をやっているか、市では何が起こっているのか、ということを知らせないといけない。だから、広報誌をずっと作り続けて全世帯に配っている。行政(自治体の広報担当者たち)にとっては、マスメディアは関係なく、広報誌を作って配ることが広報なんです。それを当たり前に思っている。
私の出身である静岡県下田市(伊豆半島の端)は、私が小学生のころ、人口が3万人を超えて「市」になった。現在の人口は、2万人を切るぐらいに減ったけれど、昔も今も必ず「広報誌」が配られている。その内容は、議会や市役所の行い、他にも、おくやみ・誕生など。それらの(市や町の)情報を当たり前のこととして発信する。
自治体では、直接市民に届ける、直接市民とコミュニケーションを図ることが広報だと浸透している。だけど、企業になるとなぜか、それがどこかへいってしまっている。
濱口: なぜですかね。
荒木: 日本に広報が広がったきっかけ、あるいは、「パブリックリレーションズ」という言葉が日本に入ってきたきっかけは、第二次世界大戦後にGHQ(連合国総司令本部)が、日本に民主主義を浸透させよう(昔の日本は帝国主義)ということで、全ての自治体にPRオフィスまたはPRO(パブリックリレーションズ・オフィス)という部署を設置したことにある。「広く、国民(県民・市民など)の声をちゃんと聞こう」、「彼らの声を政策に反映させよう」という思いから。また、国や自治体は、「自分たちがやっていること(政策を含めて)をちゃんと国民や県民に伝えていきましょう」という思いがある。
行政では元々、「国民や県民と直接交流しよう」ということが大前提で始まっている。だから、「広報広聴課」(広く報じて広く聴く)という名前のまま今も残っている自治体がある。
当初はパブリックリレーションズだから、広報と広聴(広く聴く)=「広報広聴」と言っていたのに、途中から「広聴」が抜けて、「広報」になってしまった。そもそも企業においては「広聴」という言葉は最初からなく、「広報部」という名前で始まっている。
行政はどちらかというと「広報誌を作って配ることが広報」と認識し、なぜか企業の場合は、「マスメディアにニュースとして取り上げられること」という認識になっている。
「広報も広告も、『メディアを使っている』という意味では変わらない」という認識になると、認知獲得とかマーケティングの一環、あるいは、売り上げが上がるのではないかと思われる。そのように、広報とは直接的には関りがない成果を期待されてしまうケースは多い。
濱口さんも、マーケティング関連の人たちの企画書、あるいは、マーケティング専門会社の事業説明や自分たちの強みを説明する資料などを見たことがあるかもしれない。それらの中には、広報の「マスメディアに向けて発信していく」ということが、マーケティングの一環(一つの施策や手段)として位置づけられている。「PR」という言葉もそういうケースが多く、同じ認識のままで進んでしまっている。
濱口: よろしくないですよね。
荒木: それが、なかなか変わらない。
広報とマーケティングの境界線が曖昧になり、混乱が生じている
濱口: そうですね・・・。昨年(2024年)に日本マーケティング協会がマーケティングの定義を刷新しました。その内容は、広告とかマーケティングの役割から外れ、広報PRの分野とかぶる内容だったので、「ちょっと、ちょっと!」と思いましたね。
荒木: インターネットが広がることによって、日本マーケティング協会は従来の守備範囲や境界線が曖昧になって、混乱が生じている。だから、濱口さんが言ったように、明らかにステークホルダーを全面的に出している。
本来は、広報PR=パブリックリレーションズ。そのことは、ステークホルダーとの良好な関係構築という領域だったはず。なのに、日本マーケティング協会は、定義を刷新する以前から、「顧客」や「ステークホルダー」という言葉を定義に入れ始めていたから、広報の方向に傾いていく傾向はあった。示された内容には、「それってマーケティングですか」というものもあったね。
濱口: あれ(マーケティング協会の定義)は、ひどかったですね。
荒木: 何であんなふうになったのか。日本マーケティング協会の「マーケティングの定義」(2024年1月25日改訂)を読みますね。
「マーケティングとは、顧客や社会と共に価値を創造し、その価値を広く浸透させることによって、ステークホルダーとの関係性を醸成し、より豊かで持続可能な社会を実現するための構想でありプロセスである」。
この詳しい説明として、注意書きが三つある。
- 主体は企業のみならず、個人や非営利組織等がなり得る。
- 関係性の醸成には、新たな価値創造のプロセスも含まれている。
- 構想にはイニシアティブがイメージされており、戦略・仕組み・活動を含んでいる。
と示されている。これは、パブリックリレーションズと同じだよね。
濱口: 同じですね。
荒木: (広報と)融合してしまっているんだよ。歩み寄っているのか、あるいは意識せずにそうなっているのか。
濱口: そうですね・・・。広報は、そこに融合したかったのか・・・。そんな思いもあります。
荒木: マーケティング自体にも、いろいろな意味や解釈がある。最初は顧客だけを対象にしていたけれど、今は「採用マーケティング」という言葉がある。これは、採用市場や労働市場、あるいは、金融市場や株式市場といった言葉が一般的になって「市場=マーケット」だから、そういう意味では、マーケティングと言えなくもない。そこの線引きが非常に曖昧になっている。
濱口: もう、「横文字を使っているのが悪い」という気がしてきます。日本人は、海外の横文字に憧れを持ち過ぎていると思います。
荒木: それはあるね。それが最先端だと思うから、横文字を使わないと遅れてしまっているような気持ちになる場合もある。そして、カタカナの横文字を使うことは格好いいと、なんとなく思っているところがある。
濱口: 荒木さんが、よく言われている、「どの時代も、情報発信の役割はシンプルで、いわゆる広告と広報の二つしかない」っていうこと、本当にそうだなって思います。
そこを忘れて、最先端の横文字を使って、中身がない(情報を発信する)というのは、どうなのかなと思いますね。
インターネットの普及により際立つ直接的コミュニケーションの重要性
荒木: インターネットが広がって、みんな情報端末(スマホなど)を持っているから、(企業は)自分たちで直接、個人とつながっている。働いている人でも、働いていない学生や主婦とでも、つながることができる。
メールアドレス、あるいは、端末に発信できる手段さえ持っていれば、マスメディア(ネットのニュースなど)を通さなくても、直接連絡が取れたり、一度関わったら、関係を直接結べたりする。そういったコミュニケーションができる環境が整ったことは、やはりインターネットの普及の恩恵だと思う。
今までは直接的な関係が難しいから、マスメディアを使っていたんだけど、今は個別にコミュニケーションができる。もちろん、今まで通りマスメディアのかたがたにも情報を発信するけれど、自分たちで直接つながったかたには、個別で情報を送れる状況になっているから、自分たちで情報を発信できる(しつこいと、当然嫌がられるけどね)。
そうすると、原点回帰のようで、広報とは本来そういうものなんだよね。社内報を作って社員に配る。広報誌は、自分たちの会社で作ったものを、お客さまに直接渡す。大企業は、それを昔も今もずっと変わらずやっていて、さらに、インターネットの普及で、より直接的な関係が結びやすい状況になっている。
だから企業は、マスメディアの媒体を使ってコミュニケーションを図るのか、自分たちで直接コミュニケーションを図るのか、ということになる。
広報の本来の役割は、直接的なコミュニケーションを図ること。そのことが分かると、マスメディアに対して情報を発信することは、パブリックリレーションズの一つであって、報道関係者とのパイプだということが理解できる。
さらに、ステークホルダー(利害関係者)に関しても理解を深めていくね。ステークホルダーとは、利益も損害も共に影響し合い、共有し合う関係を持つ人たちのことを指す。また、既に切っても切れない、互いに影響し合う関係を結んでいる人たちでもある。
この人たちと、どうやったら信頼関係を結べるのか、どうやったら好かれるのか。あるいは、共感してもらえるのか。また、ピンチになったら助けてくれる。(状況が)厳しいときには、真面目に、その企業のことを思って叱ってくれる。そういう信頼関係を結ぶために、企業は一体どんな情報を発信したらいいんだろうか。
うそをついたり、言い返したりしても仕方がない。ありのまま、等身大で情報を伝える必要がある。そこが広報の一番大事なところ。だけど、そこをないがしろにされている。それが悲しいかな。
濱口: 悲しいですね。今は、プレスリリースを書く人は、すごく増えてきていると思います。だけど、「そもそもPRとはどういう意味か」を知らない人、また、ステークホルダーやパブリックリレーションズという単語も知らない人が案外多いと思います。(以前は)私もそうでした。
プロと名乗りながらも、そういうところを知らず、本質も分かっていない。プロと名乗る人が知らなければ(前述の某団体もそうであるように)、当然、周りの知らない人たちは、自分のさまざまな解釈でPRや広報について堂々と語り出してしまいます。そんなことをしていたら、知らない人たちは、なおも誤解を生むことになります。
しかも、大きい企業が「(誤った解釈のまま)これが広報だ」と言っていると、「それが広報なんだ」と、二次被害のような状況をつくってしまいます。そういったところが、今、悪しき傾向にあるなと思いますね。
荒木: だから、今一度、「広報とは何か」ということを、ちゃんとお互いに整理し、共通の認識が持てれば誤解は生まれない。そのためには、曖昧なまま進まず、言葉を整理(意味や目的、対象、内容など)していくといい。
案外、どちらも情報を扱っているのだから広報とかマーケティングという言葉を言わない方が分かりやすいな、と思うこともある。これについては、お互い常に問題意識を抱えている部分だから、とめどなく話題が出てきそうだね。でも、そろそろ20分が経ちそう(放送終了時間)。
濱口: そうですね。あっという間です。
荒木: この流れも含めて、今日(今回の放送内に)話せなかったことは、また次回に持ち越しです。来週も、この流れのまま話を進めて行けたらと思います。
濱口: そうですね、分割しましょう。
荒木: 分割でいきましょう。じゃあ、今週もありがとうございました。
皆さん、ぜひフォローして、毎週聞いていただければうれしいです。
濱口: そうですね。毎週この「オタク話」を聞いていただくと知見が上がります。
荒木: そうしたいですね。今日もありがとうございました。
濱口: ありがとうございました。