【ポッドキャスト #78】中小企業は、行政広報から何を学べるのか

前回の整理を受けて、中小中堅企業やスタートアップが行政広報から学べることを考えます。
大企業のように広告費を多く使えない中で、どう関心を生み、関係を育てるのか。
鹿児島県の公式LINEの事例も交えながら、限られた予算で続ける発信の意味を語ります。
現在のステークホルダーと、未来のステークホルダーの両方を見つめる回です。
音声(番組)は以下より聴取できます。
・ポッドキャスト:#78
・Spotify:#78
以下、テキスト版です。ぜひご一読ください。
◆中小企業は、行政広報から何を学べるのか
荒木
前回は、行政広報とシティプロモーションの違いについて話しました。今回はそこから続けて、企業、特に中小中堅企業やスタートアップが行政広報から何を学べるのかを考えたいと思います。
濱口
前回の話を聞いていて、行政の広報にも企業と共通するところがあるなと思いました。
荒木
ありますね。もちろん違うところもあります。ただ、中小中堅企業にとっては、自治体の広報やシティプロモーションから学べる点がかなりあると思います。
◆大企業は広告で接点をつくれる
荒木
大企業は、広告費をかなり持っています。テレビ、新聞、雑誌、ネット広告、SNS広告、YouTubeの動画広告など、さまざまな接点を広告でつくることができます。
濱口
確かに、いろいろなところで広告を目にしますね。
荒木
一回接触しただけでは覚えてもらえないので、何度も広告で接触する。新規のステークホルダーと出会うために、大きな広告費を使えるわけです。
でも、自治体はそこまで広告費を使えません。限られた予算の中で、住民にも、外の人にも、地域の魅力や必要な情報を届けなければならない。
濱口
中小企業や中堅企業も、そこは近いですね。
荒木
そうです。大企業ほど広告費を持てない中で、どうやって知ってもらうか。どうやって関心を持ってもらうか。そこに、自治体から学べる点があります。
◆シティプロモーションは、未来のステークホルダーへの発信
荒木
少し私独自の言い方ですが、ステークホルダーには「現在のステークホルダー」と「未来のステークホルダー」があります。
濱口
未来のステークホルダーですか。
荒木
今すでに関係がある人たちが、現在のステークホルダーです。企業で言えば、社員、顧客、取引先、株主、地域社会などですね。行政で言えば、住民が一番分かりやすい存在です。
一方で、まだ関係は薄いけれど、これから関係を持つかもしれない人たちがいます。自治体で言えば、観光客、移住希望者、関係人口です。これが未来のステークホルダーです。
濱口
企業で言えば、採用候補者や新規顧客候補ですね。
荒木
そうです。まだ社員ではないけれど、将来働いてくれるかもしれない人。まだ顧客ではないけれど、自社の商品やサービスで課題が解決されるかもしれない人。
中小中堅企業が未来のステークホルダーと出会うには、大企業のように広告だけで押し切ることは難しい。だからこそ、シティプロモーションの考え方が参考になるんです。
◆まず、今いる人たちに届けているか
荒木
もう一つ、自治体から学べるのは、今いる人たちへの発信を続けていることです。
濱口
自治体は広報誌を出していますよね。
荒木
そうです。どんな小さな町でも広報紙があります。
企業も、未来の顧客や採用候補者に向けて発信する前に、まず今いる社員や顧客、取引先に何を伝えているのかを考えた方がいい。目の前のステークホルダーとの関係を深めることが、広報の基本です。
濱口
続けることの大切さは、自治体がすでにやっていますね。
荒木
まさにそうです。広報は継続しないと効果が見えにくい。けれど、自治体はそれを当たり前のように続けている。そこは企業も学べると思います。
◆自分たちの魅力を掘り起こす
荒木
シティプロモーションでは、地域の魅力を掘り起こすことが大切です。
ずっと住んでいる人ほど、自分の町の魅力に気づいていないことがあります。「ここが観光資源になるのか」と驚くこともある。
濱口
企業も同じですね。普通にやっていることが、外から見ると魅力だったりします。
荒木
そうです。企業も、自分たちにとって当たり前の仕事や判断が、外から見ると価値になることがあります。
ところが、発信を考える時に、すぐ「TikTokがいいのでは」「面白いことをやった方がいいのでは」と、手法から入りがちです。
濱口
手段に引っ張られることはありますね。
荒木
もちろん、世の中の動きを見ることは大切です。
でも、自分たちの魅力を掘り起こさないまま、流行りの手法に乗っても、会社らしさは伝わりません。そこは行政のシティプロモーションから学べるところだと思います。
◆鹿児島県公式LINEに見る、こまめな発信
濱口
私は鹿児島県の公式LINEを登録しているんですけど、そこから広報紙やYouTube、イベント案内などが定期的に届きます。
荒木
それはいいですね。
◆学ぶべきは、形式ではなく考え方
濱口
広報紙も見られますし、ファミリーキャンプや青年塾のようなイベントのお知らせも届きます。毎回、短い文章で分かりやすく送ってくれるんです。しかも、毎回夕方5時に届くので、「あ、県庁からだな」と分かるようになりました。
荒木
それはすごく大事です。
特別に派手なことではないけれど、こまめで丁寧ですよね。コミュニケーションの密度が高い。日常的に使っているLINEで届くことも大きいです。
濱口
全部を読むわけではないんですけど、見出しだけでも県が今何に力を入れているのかが少しずつ分かります。
荒木
その積み重ねが関係をつくるんだと思います。
中小中堅企業も、限られた予算の中で何か大きなことをしようとする前に、今いる人たちに、こまめに、丁寧に届けることから学べるのではないでしょうか。
荒木
行政広報をそのまま企業がまねればいい、という話ではありません。行政と企業では目的も対象も違います。
ただ、限られた予算の中で、今いる人たちとの関係を深め、未来のステークホルダーと出会おうとする姿勢には、企業が学べる点があります。
濱口
まずは、自分が住んでいる自治体の広報を見てみるのもよさそうですね。
荒木
そうですね。県や市の広報紙、公式LINE、SNSを見てみると、案外、自社の広報に生かせるヒントがあるかもしれません。
大切なのは、派手な手法ではなく、誰に、何を、どれくらい丁寧に届け続けているか。そこに、行政広報から学べる本質があると思います。

