球団は、地域の何になるのか:第1回 「プロスポーツ×地域活性化」では、見えないもの

球団は、地域の何になるのか――プロスポーツと関係資本
第1回 「プロスポーツ×地域活性化」では、見えないもの
「Case Study」の年間連載の柱の一つであるMLBも、折り返しを過ぎた。これまで見てきたのは、試合や球団経営だけではない。球場、都市、企業、メディア、ファン、家族、地域社会が、長い時間をかけてどのような関係をつくり、その関係を事業や制度として持続させてきたのか、ということだった。
私はMLBを、巨大な関係資本産業として捉えてきた。MLBの公式発表も、米国野球には150年を超える歴史があると記す。制度は変わってきた。それでも、世代を越えて蓄積された記憶や物語、地域との接点が現在の事業を支えている。私は、その厚みを歴史資本として読んできた。
そのMLB連載が後半に向かう中、別の場所から新しい問いが立ち上がった。8月初旬の「居酒屋広報人」で、プロバスケットボールが話題になった。会話はやがて「プロスポーツ×地域活性化」へ広がり、参加者の一人からプロ野球独立リーグの佐賀アジアドリームズについて聞いた。
プロスポーツと地域の関係は、かなり以前からニュースや知人との会話の中で見聞きしてきた。プロ野球、サッカー、バスケットボール、ラグビー、卓球など、国内には地域との結び付きを掲げるトップリーグや球団、クラブがある。しかし、佐賀の話を聞きながら、あらためて引っかかった。「プロスポーツ×地域活性化」という言葉で、これらを一括りにしてよいのだろうか。
「地域活性化」は、結果を表す言葉である
スポーツ庁は、スポーツを活用した地域の社会課題の解決と、競技振興と地域振興の好循環を政策に掲げている。地元プロスポーツだけでなく、地域スポーツ、大学スポーツ、国際交流、施設なども地域資源に含める。さらに、2026年7月の第4期スポーツ基本計画の中間報告では、人が「集う」「つながる」空間や、質的な評価、取組を担う組織の継続性にも視野を広げた。
政策の射程は、すでに単純な集客論より広い。それでも「地域活性化」という言葉は、異なる過程を一つの結果にまとめてしまいやすい。観客数、交流人口、周辺消費、経済波及効果、地域の知名度。いずれも重要である。施設への投資や公費の投入を検証するためにも、測定できる成果は欠かせない。
ただ、来場者が増えたことと、地域の人々の間に新しい協働が生まれたことは同じではない。消費が増えたことと、その価値が地域に残ることも同じではない。球団の知名度が上がっても、住民、企業、自治体、学校、商店、選手の間に、次の行動につながる関係が育ったとは限らない。
| 球団が地域にあることと、球団と地域の間に関係資本が育つことは同じではない。 |
関係は、存在するだけでは資本にならない
ここでいう関係資本とは、球団が地域で知られていることや、住民から好感を持たれていることだけを意味しない。球団、自治体、地域企業、商店、学校、住民、ファン、選手、メディアなどの間で接点が繰り返される。その中で信頼、役割、知識、経験、物語が共有され、次の協働を起こしやすくなる。そうして蓄積された関係を、この連載では関係資本と捉えたい。
近接する概念に、ソーシャル・キャピタルがある。アメリカの政治学者ロバート・パットナムは、ソーシャル・キャピタルを「信頼」「規範」「ネットワーク」といった社会組織の特徴と捉え、規範の中でも互酬性を重視した。内閣府の調査も、この考え方を基に分析している。ただし、関係資本とソーシャル・キャピタルを厳密な同義語として使うわけではない。前者は、今回の三事例を比較するために私が置く分析の言葉である。
一度のイベントで人が集まれば、接点は生まれるかもしれない。しかし、一度限りで終われば蓄積にはならない。特定の経営者、選手、行政担当者の熱意で動き始めた取組も、その人がいなくなった後に続かなければ、地域の資本になったとは言い切れない。関係が反復され、役割や仕組みとして定着し、次の担い手に引き継がれて初めて、関係は地域に残る。
広報研究が残してきた補助線
思い出したのが、日本広報学会の研究蓄積である。同学会では、1999~2000年度の「企業スポーツ広報」研究会以降、「企業とスポーツの関わり」「スポーツ広報の現状と可能性」へと研究が続き、2007年度以降はスポーツ広報やスポーツ施設とソーシャル・キャピタルを結び付けてきた。
問いは、スポーツをどう利用し、どう伝えるかだけではない。スポーツ組織が社会の中で何を価値として生み出しているのかへ向かっている。2026年の『広報研究』に掲載されたスポーツNPOに関する論文は、スポーツNPOが社会課題の現場と企業などをつなぐ媒介主体になり得ると論じた。対象はプロ球団ではないため、その結論を今回の三事例へそのまま当てはめることはできない。それでも、スポーツを興行や発信だけでなく、関係をつくる媒介として読む重要な補助線になる。
だから「スポーツには人をつなぐ力がある」と説明するだけでは足りない。誰と誰がつながったのか。何が接点を生んだのか。関係を動かした主体は誰か。生まれた価値は誰に残り、費用や負担は誰が引き受けたのか。そして、その関係は試合のない日にも続いているのか。見るべきものは理念だけではなく、形成の過程である。
起点の異なる三つの事例
この問いを考える材料として、MLB、北海道ボールパークFビレッジ、佐賀アジアドリームズを並べてみたい。三つは、規模も歴史も事業構造も異なる。同じ意味での成功例でもない。その違いが、むしろ比較の材料になる。
MLBは、米国プロ野球の長い歴史の上にある。球場、リーグ制度、放送、スポンサー、地域活動、家族の記憶など、複数の経路が重なってきた。一方で、球場をめぐる公的負担、球団移転、価値の偏在も問われてきた。完成されたロールモデルではなく、関係が形成され、制度化され、ときに壊れながら更新されてきた長期の事例として読みたい。
2023年に開業した北海道ボールパークFビレッジは、新球場を核とする約32ヘクタールのエリアである。運営側は、野球観戦だけの施設ではなく、ファン、企業、地域とつくる「共同創造空間」と位置付ける。北広島市には、18市町村を含む連携協議会も置かれている。ここでは「場」が、地域との接点を生む主な媒介になっているのではないか。
一方、2024年に活動を始めた佐賀アジアドリームズは、大規模施設や都市開発を出発点としていない。2026年シーズンは8カ国・地域の選手で構成され、海外から来た選手らが佐賀県嬉野市の宿舎で共同生活した。球団は国際的な選手育成や野球振興を目的に掲げる。スポーツ庁が実施する、スポーツ産業の国際展開を支援するプラットフォーム「Japan SPorts business INitiative(JSPIN)」の解説によると、文化・経済交流の橋渡しも目標としている。ここでは地域で暮らす「人」が、接点をつくる起点に見える。
ただし、「場のモデル」「人のモデル」と決め付けるのは早い。Fビレッジを地域開発の成功例と断定することも、佐賀アジアドリームズを人材循環の完成形と呼ぶことも、現時点の資料からはできない。いずれも、関係をつくろうとする設計と活動が確認できる段階である。
また、場、人、歴史を同じ種類の類型として並べるつもりもない。場や人は、関係が始まる経路である。長い歴史は、それらの関係が制度化され、反復され、継承された蓄積の段階である。この二つを分けることで、三事例の違いが見えやすくなる。
同じ物差しで比べない
今回の連載では、観客数や事業規模だけで三事例を比べない。確認するのは、次の点である。
1 何を起点として、地域との関係が始まったのか。
2 場、人、制度、メディア、物語のうち、何が接点を媒介しているのか。
3 球団、自治体、企業、住民、選手のうち、誰が関係を動かし、関係はどちらへ循環しているのか。
4 生まれた価値は誰に残り、費用やリスクは誰が引き受けているのか。
5 その関係は、勝敗やスター選手、特定の担当者に依存せず、反復され、継承されるのか。
形成の過程を追えば、「地域活性化」という一語では見えなかった違いが現れるはずである。同時に、規模や歴史が違っても、接点を一度限りで終わらせず、次の協働へ結び付ける共通の条件が見えてくるかもしれない。球団側が地域へ何かを提供するだけでなく、地域の側も球団のあり方を変えていく。その循環があるかどうかが、地域にプロスポーツが「ある」状態と、地域の中に関係資本が「育つ」状態を分けるのではないか。
見たいのは、関係が続く条件
「プロスポーツ×地域」の成功事例を紹介するだけなら、候補は数多くある。しかし、成功という言葉を先に置くと、問いが閉じてしまう。誰にとっての成功なのか。短期的な集客と長期的な蓄積は一致しているのか。経済的な価値と社会的な価値は、同じ人々に届いているのか。地域貢献という言葉の陰で、自治体、住民、選手の負担が見えなくなってはいないか。
この連載で探りたいのは、模倣すべき一つのロールモデルではない。プロスポーツは何を起点に地域との関係をつくり、どこに重心を置き、どのように持続させているのか。その違いを読み解くことで、「プロスポーツ×地域」を複数の形成経路として捉え直せるのではないか。
次回は、北海道ボールパークFビレッジを取り上げる。球場という「場」は、どのように地域との接点を生み、試合のない日にも関係を更新しようとしているのか。施設の大きさや来場者数の向こう側にあるものを見ていきたい。
球団が地域にあることと、球団と地域の間に関係資本が育つことは同じではない。では、その二つを分けるものは何か。ここから、三つの事例を通して考えていく。
