初級講座「Ⅲ.実務能力編」 ファクトブックの作り方 5.ファクトブックに必要な情報・データ

こんにちは、荒木洋二です。

「ファクトブックの作り方」講座も残すところ、2回です。

今回は「5.ファクトブックに必要な情報・データ」について説明します。前回まで3回にわたり解説した「4.ファクトブックを構成する各項目の作り方」の総まとめといいますか、今一度振り返りつつ、各項目でどんな情報・データが必要なのかを述べます。

まず、組織内にある事実(情報)を迅速に正確に集める必要があります。さらに組織に関わる社会や環境に関する事実(情報)についても同様です。常日頃から社内外の出来事を記録しておくことが大切です。

ファクトブックは次のスライドに記載の通り3部構成です。

それぞれ、どういう事実を集めればいいのか、どういう情報が必要なのかをこれから一つ一つ改めて確認しましょう。

第1部:どんな会社なのか

【組織における人物紹介】

ここでは代表者や経営陣のメッセージ、プロフィール、写真の3点です。同様に組織に関わるキーパーソンのメッセージ、プロフィール、写真の3点を準備しましょう。

社員・スタッフに関する情報として人数の推移(5〜10年)、社員・スタッフの構成を整理します。構成とは基本は男女別、年代別です。会社が事業領域とする業界で必要な資格があれば、資格保有者数も示すといいでしょう。

これら情報を即座に理解できるように図表やグラフで表します。

【財務数字など】

次に財務に関わる数字です。売上高・利益に関しては5〜10年間の推移を図表やグラフで表しましょう。上場企業でなければ、利益に関しては必須ではありません。ただ、なるべくありのままの数字を公開することが望ましいことは忘れてはなりません。

財務以外の数字として、例えば5〜10年間の拠点数、顧客数を示してもいいでしょう。顧客数に関しての詳細は次の項目で表します。

【会社の沿革】

会社の沿革も必要です。1年間の主要な出来事を記録として残しておくことが欠かせません。必ず写真も撮影し、画像として記録しましょう。

ファクトブックは最低年1回、期初に更新するものです。ですから毎年1年間の出来事を記録し続けましょう。とはいえ、ファクトブックに全てを記載すると膨大な情報量となりますから、記録に残しつつ特筆すべき事柄のみを毎年加えていきましょう。

第2部:どんな事業を営んでいるのか?

【事業領域】

ここでまず必要な情報は自らが営んでいる事業領域です。どういう領域、どういう分野で事業を営んでいるのか。周辺の情報を含めて図解で表します。

初めて知る人には事業内容、事業領域は分かりづらいものです。業界のことを知らない人たちにとっては非常に分かりづらい内容が多いでしょう。だからこそ図解で表します。

【製品・サービス一覧】

製造業であれば製品一覧表、サービス業であればサービス一覧表が必要です。写真、詳細な仕様などの情報を整理します。

【コア・コンピタンスと価値創造のメカニズム】

単なる製品情報だけではなく、一体その製品・サービスのどこが優れているのかを表す必要があります。少し難しい言葉で表現するとコア・コンピタンスと言います。日本語では「競争優位の源泉」です。文字だけでなく、図解、イラストで表しましょう。

次に自らの会社・組織がどうやって価値を創造しているのか、つまり価値創造のメカニズムを図解で説明する必要があります。

【社員・スタッフ教育】

次に社員・スタッフに対してどういう教育を提供しているのかを示します。階層別、テーマ別などに分類し、参加延べ人数、研修の延べ時間数など、事実を数字で記録しておきましょう。

階層別とは、新入社員、中間管理職、幹部・経営陣などです。テーマ別であれば、コンプライアンス研修、開発者向け研修など、各社でさまざま設定していると思います。

【取引先の社数・シェア】

製造業の取引先であれば、原材料・部品の供給先が存在します。販売網の取引先もあるでしょう。これら取引先の企業数、そしてそれぞれのシェア(占有率)を整理しておく必要があります。供給先は何社あるのか、販売先は何社あるのか。それぞれどの会社がどれくらいのシェアなのか。図表・グラフを準備します。

【顧客分類】

どんな顧客がいるのかを整理します。顧客を多角的に分類します。

例えばBtoB企業でいえば、売上高規模での分類です。年商50億円以上の企業が何社あるのか、10〜50億円未満、5億円未満など適宜分類します。社員数、社歴での分類もあるでしょう。

BtoC企業の場合、男女別、年代別、地域別で分類します。

これらをさらに製品別、サービス別にするという分類もあるでしょう。

このように多角的、多面的に顧客を分類し、図表やグラフで表すということです。

【顧客の実態】

定量情報だけでなく、定性情報も必要です。自社で顧客向けにアンケート調査を定期的に実施します。その分析結果を図表・グラフで示します。顧客分類と比較すると、調査結果自体が顧客の実態を表した定性情報といえます。ただ、数字だけですと定量情報なので、そこで知り得た生の声を定性情報として記録します。

例えば、ニュースレター(自社の広報誌)で顧客を取材したのであれば、インタビュー記事の一部を抜粋して記載してもいいでしょう。

【投資の実態】

設備や研究開発に投資しているのであれば、5〜10年の投資内容、投資規模(投資額)を整理しておきましょう。

第3部:どんな環境で生きているのか?

【市場規模・市場動向】

ここでのポイントは、官公庁などの公共機関や民間の調査会社(シンクタンク)が実施した最新の調査結果を採用することです。

国の統計結果など、インターネットで公開して誰でも閲覧できるものもあるし、民間調査会社であれば、詳細なデータを購入する必要もあるでしょう。出典、出所、引用元を明記すれば利用できるものを常に入手する必要があります。複数の調査結果をもとに市場規模や市場動向を図表やグラフで準備します。

【業界構造】

業界構造も必要です。どんな業界の中で事業を営んでいるのか、整理します。分かりやすく伝えるためには図解やイラストなど、表現に工夫を施します。

【(地域)社会が抱える課題整理】

例えば、社会貢献活動を定期的に行っているとしましょう。その場合、地域社会(あるいは社会全体)が直面するどんな課題を解決するために、どんな社会貢献活動を行っているのか。これらが分かるように、まず抱える課題を数字で示す調査結果などの情報を集めて整理していくことです。次にその課題解決のために実施してきた活動の5〜10年分の実績を整理します。写真やさまざまなデータを用いて表します。

【組織が関わる環境問題実態】

特に製造業であれば、自然環境にある物質などを原料にしたり、製造の過程でさまざまな負荷を与えたりするなど、環境と深く関わりながら事業を営んでいます。

自らが事業を営む中でどんな影響を与えているのか、どんな環境問題に関わっているのか、その実態を明らかにします。実態を把握した上でどんな環境保全活動を継続して行っているのか。5〜10年分の活動実績を写真やさまざまなデータを用いて表します。

しっかりと関わりを明示した上で、意味のある取り組むべき活動を実施していることを伝えていくためにも日頃から記録し整理しておく必要があります。

【その他実態】

経営環境、労働環境、社会環境の現状を常に最新の調査結果を集め、整理し、実態を把握しておきましょう。これら環境は年々変化するものです。どう変化し、自社がどういう状況に置かれているのかを常に把握していくことが大切です。

今まで説明してきたとおり、ファクトブックを作る際に必要な情報(事実)があります。それは組織と、組織に関わる社会環境に対する事実(情報)を常に集め、記録することです。集めた情報を分析することで、自らの組織が今置かれている立場、今のありのままの姿を正しく伝えていくことができるのです。

次回は「ファクトブックの作り方」講座の最終回です。最終チェックリストについて説明します。

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