【過去の人気コラム】#84 ステークホルダー考(5)


2019年年末から始めた「荒木洋二のPRコラム」と「聴くコラム」ですが、おかげさまで85回の配信を重ねて参りました。
2022年7月から2023年1月までは、筆者が出版に向けた執筆活動に集中させていただきたく、新規のコラムはお休みとさせていただきます。そこで再開するまでの間、過去の配信の中から人気のあったコラムを再送させていただきます。


2022年7月4日配信

こんにちは、荒木洋二です。

ステークホルダーとは企業・組織を取り巻く関係者のことです。日本語では利害関係者と訳されます。利益も損失も共有する、相互に影響を与え合う関係者たちです。関係者とは、経営者・社員、顧客、取引先・パートナー、株主、地域社会(役所・住民)のことです。
さらに言えば、当連載の第3回で述べたとおり、企業・組織にとってステークホルダーとは、共に価値を生み出す仲間たちです。仲間たちがいなければ、価値を生み出せない、つまり経営そのものが成り立たないということです。おおげさに言えば、運命共同体ともいえます。

企業経営にとって欠かせない、決定的に重要な存在がステークホルダーなのです。前々回、七つの項目を挙げ、ステークホルダーをキーワードに読み解くと表明しました。これまでの2回で経営目的、経営戦略、社会的責任の三つを解説しました。

今回は、筆者の専門領域でもある広報PRとリスクマネジメントを、ステークホルダーを軸にひもときます。

■良好な関係を築くために丁寧なコミュニケーションを継続

広報とPRは同義語です。PRとはパブリック・リレーションズの略です。直訳すれば、公共関係、公衆関係です。日本では第2次世界大戦後、GHQ(連合国軍最高司令官総司令部)によりPRが導入されましたが、やがて「広報」という言葉で定着しました。もともとは同義語なのです。
では、企業・組織にとっての公共とは何か、公衆とは誰なのか。公共、公衆を構成する主体ごとに分解してみると、その答えは明解です。つまりステークホルダーなのです。

PRの本質は、ステークホルダーとの良好な関係構築という概念です。

ここでステークホルダーと良好な関係を築くための概念を、対象ごとに分けて専門用語で示します。

・社 員    :エンプロイー・リレーションズ
・顧 客    :カスタマー・リレーションズ
・株 主    :インベスター・リレーションズ(=IR)
・取引先・業界 :インダストリー・リレーションズ
・地域社会   :コミュニティ・リレーションズ
・報道機関   :メディア・リレーションズ
・政府・行政機関:ガバメント・リレーションズ

社員との良好な関係を築くための営みは、インターナル・コミュニケーションとも呼ばれています。派生した用語として、インターナル・ブランディングもよく使われます。こうして確認してみると、やはりカタカナ・ビジネス用語の乱用は物事の本質を見えなくする悪習だと言わざるをえません。われわれ企業社会で働く者たちは、常に「そもそも何のか」を問い続ける姿勢を失ってはならないと肝に銘じるべきです。

少々脱線したので、本題に戻りましょう。

良好な関係を築くためにはコミュニケーションが欠かせません。丁寧なコミュニケーションを地道に継続することで良好な関係は築かれます。コミュニケーションを構成する要素は四つです。見る、聞く、考える、話す(伝える)の四つです。コミュニケーションは双方向を前提とした言葉であり、お互いに四つの要素を実践することが大切です。

前回解説したCSR(企業の社会的責任)の本質は、全てのステークホルダーと向き合うことでした。逃げたり目を逸らしたりせず、存在をないがしろに扱うことなく、さまざまな意見や要望、不満までも正面から受け止めていく、そういう真摯な姿勢で臨んでいるかどうかを企業に問うものです。CSRがより重視するのは「見る・聞く」の要素だというのが筆者の見解です。特に傾聴できているかどうかが問われます。
経営戦略とはステークホルダーとの約束ですから、誰に何をどう約束するのかを決める必要があります。決定するためには議論に基づく思考が欠かせません。思考と議論を重ねた先に経営戦略は立てられます。経営戦略が担うのは「考える」領域なのです。

そして、広報PRでより問われることが「話す(伝える)」という要素です。全てがつながっています。広報PRの営みを端的に言えば、「表・裏を見える化して、内外に伝える」ということです。詳しくは当コラム第22回をご一読いただきたい。

■共に未来をつくるためにリスク情報も共有

次にリスクマネジメントをひもときましょう。

リスクマネジメントは10年ほど前からでしょうか、サッカーでも頻繁に使われるなど、一般的に広がってきたカタカナ・ビジネス用語の一つです。ただ、危機管理との違いなど、詳しく理解している人は多くありません。

では、そもそもリスクマネジメントとは何なのか。当社では筆者の見解として、次のとおり説明しています。

・ステークホルダーとリスク(情報)を共有し、共に未来をつくり、危機を乗り越えていくこと

未来は不確かなものです。全てを予測することはできないし、もちろん予知することもできません。ゆえにリスクはときに顕在化し、危機に直面することもあります。

だからこそ、重要なことは把握できるリスク情報をステークホルダーと迅速かつ正確に共有することです。とかく企業・組織は耳障りのいい情報ばかりを共有したがります。上場企業にはIR(株主向け広報)の一環として、リスク情報の開示が義務付けられています。ただ、当たり前のこととして、上場か未上場かに関係なく、共に価値を生み出す仲間たちに隠し事があってはなりません。共に未来をつくる仲間たちを信頼し、知り得たリスク情報を全て共有することに努めるべきです。

経営の目的とリスクマネジメントの目的は同じです。経営の目的は、さまざまなステークホルダーから選ばれ続けることです。さまざまなステークホルダーと共に生み出した価値を、自ら守り続けることがリスクマネジメントの目的です。そのためにはリスク情報も共有しなければなりません。

国際標準化機構(ISO)が定めたリスクマネジメントの国際規格「ISO31000」では、「利害関係者とのコミュニケーションと協議」として、ステークホルダーについて言及しています。そこでは次の三つの大切さが明記されています。

・利害関係者に情報を提供する
・利害関係者と情報を共有する
・利害関係者から情報を取得する

ステークホルダー自身が何らかのリスクを保有しています。リスクはステークホルダーそれぞれとの関係に潜み、ときに現れます。だからこそ、それぞれのステークホルダーたちの振る舞いを注意深く観察し、ときに洞察することが必要です。現状、どんな関係を築けているのか、冷静に分析しなければなりません。

■そもそもリスクとは

そもそもリスクとは何なのか。リスクマネジメントに定義はあるのか。関心があり、詳しく知りたい読者は、当社ニュースルームのカテゴリー「図解と文字で学ぶ! 超解説『広報人eラーニング』」の以下列挙した講座をご一読いただきたい。中級講座「Ⅰ.理論・基礎知識」の「経営と広報」の講座です。基礎の基礎を解説しています。

はじめに
リスクマネジメントの基礎 〜リスクとは〜
リスクマネジメントの基礎 〜損失発生のメカニズム〜
リスクマネジメントの基礎 〜リスクマネジメントとは(1)〜
リスクマネジメントの基礎 〜リスクマネジメントとは(2)〜

次回は、七つの項目における最後の二つとして経営資源と企業価値を読み解きます。

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