Weekly Essay オフレコ破りをどう見るか

広報の仕事に携わるようになって、まもなく26年を迎えます。報道関係者を相手とする仕事でしたから、PR会社に入社後、ほどなくしてから「オフレコ取材」という言葉を知りました。先週、この「オフレコ」について改めて考えさせられる出来事がありました。

2月4日、岸田文雄首相が首相秘書官の荒井勝喜氏を更迭しました。なぜ更迭したのか。マスコミ各社が報道しているとおり、3日夜、首相官邸で行われた記者団によるオフレコ取材で発言した性的少数者に対する差別的発言が原因でした。同性婚に対する1日の岸田首相の答弁を受けた形での、オフレコ取材だったといいます。

そもそもオフレコ取材とは何か。日本新聞協会「オフレコ問題に関する日本新聞協会編集委員会の見解」(1996年2月14日)を読むと、よく分かります。「オフレコ(オフ・ザ・レコード)は、ニュースソース(取材源)側と取材記者側が相互に確認し、納得したうえで、外部に漏らさないことなど、一定の条件のもとに情報の提供を受ける取材方法」と解説しています。さらに「取材源を相手の承諾なしに明らかにしない『取材源の秘匿』、取材上知り得た秘密を保持する『記者の証言拒絶権』と同次元のものであり、その約束には破られてはならない道義的責任がある」と(自戒の意を込めてなのか)強い言葉をつづっています。

今回はこのオフレコを破り、毎日新聞(2023年2月3日22時57分)が記名記事でスクープしました。本人には事前に報道することを伝えていたようですが。この報道を受け、3日深夜、記者団に対して今度はオンレコ取材で発言を撤回し、謝罪しました(毎日新聞の同月4日19時24分の記事が詳しい)。毎日新聞はこの報道の直後、オフレコを破り、報道した経緯を記事にしています。
オフレコとはいえ、余りにも不用意な荒井氏の発言でした。酒席でもないのに、なぜ一連の発言をしたのか、不思議というか理解に苦しみます。ただ、録音していないので、どこまで正確な報道だったのか、という点については議論の余地があります。オフレコでなくても、発言の全体や前後の脈絡も無視して、一部を切り取る報道が近年増えた実感があります。このようなマスコミの報道姿勢には納得がいきません。そんな思いを日頃抱いていたこともあり、正直に言うと今回のオフレコ破りにも受け容れがたい気持ちがあります。

そんな気持ちを抱きつつネットで検索してみたところ、二つの興味深い記事を見つけました。一つはニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者の安部かすみさんの『Yahoo!ニュース』の記事です。もう一つは古いのですが、西村あさひ法律事務所・元TBSテレビ記の鈴木悠介弁護士の記事です(『広報会議』2016年10月号)。皆さんは今回のオフレコ破りをどう見ますか。私はこのテーマを引き続き考えていきたいと思います。


1月30日(月) 荒木洋二のPRコラム
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