Weekly Essay トヨタ記者会見にみる広報の在り方

2週間前の当エッセイで、トヨタ自動車の『トヨタイムズニュース』(1月26日)での社長交代発表で垣間見えた、近未来の広報について私見を述べました。今回の発表方法は多大なる反響があり、報道関係者のみならず多くの関係者に驚きを持って受け止められたようです。トヨタによるメディアの中抜き。トヨタ自身がマスメディアばりのメディアを立ち上げて視聴者獲得を目論む。さまざまな見方、捉え方がありました。

トヨタは先の発表に続き、昨日(2月13日)15時から4月からの新体制に関して「トヨタ自動車 記者会見」を開催しました。リアルの会見場とオンラインによる、いわゆるハイブリッドでの開催でした。オンライン記者発表会は、新型コロナウイルス感染症がまん延してから大企業では当たり前になりました。ハイブリッド開催も定着しつつあるといいます。企業と報道関係者の双方にとって利便性が高く、利点が多いことが理由だろうと容易に推測できます。

しかし、トヨタは単なるハイブリッド開催ではありません。今回の記者会見は、なんと(『トヨタイムズニュース』ではなく)同社のニュースルームでライブ中継されたのです。私は同ニュースルームにメールアドレスを登録していますので、当日12時20分、記者会見のライブ中継に関するメールをトヨタから直接受信しました。そのため仕事の合間に20分程度、ライブで視聴することができました。
しかも会見終了後、同ニュースルームで記者会見での発表内容、各役員たちのスピーチを全てテキスト(文章)で掲載、約90分に及ぶライブ中継の模様を質疑応答に至るまでノーカットでアーカイブ配信もしているのです(「役員人事および幹部職人事について」)。
従来、記者発表会などはその名の通り対象は報道関係者に限られ、それ以外の人は会場に入れません。私たち一般人やステークホルダー(顧客、取引先、株主など)も報道でしか、その内容を知ることはできませんでした。全ての発表内容、どんな表情でどんな文脈で何を語ったのか、記者たちとどんな質疑応答をしたのか、などは知るよしもありませんでした。
実はトヨタは今回が初めてではありません。私の記憶では同じ形式での初めての開催は、2020年4月のNTT(日本電信電話)との資本提携記者発表会です。ライブで全て視聴できたことが、本来の広報の在り方を探究する一つの機会ともなりました。公開したのは記者発表会だけではありません。その後、中間決算発表会、アナリスト説明会なども同様でした。今までは株主やアナリストでなければ参加できなかった会をステークホルダー全てに隠すことなく、見せてのけたのです。記者発表会、決算発表会、アナリスト説明会、どれをとっても対象となる人以外にとってはまさしく「舞台裏」でした。トヨタはこれら「舞台裏」を隠したり編集したりしないで、ありのままの姿を等身大で伝えたのです。今も同じ姿勢で発信し続けています。このような姿勢に触れると、ニュースルームでメールアドレスを登録した人は、全て「ステークホルダー」だと捉えていることが分かります。

ステークホルダーに自社のありのままの姿を等身大で、しかも自ら直接伝える。これこそ本来の広報の在り方です。

昨日の質疑応答で朝日新聞の記者が本質を突く質問を投げかけました。先日の『トヨタイムズニュース』による発表も含めて情報発信の在り方をどう考えているのか、というものでした。佐藤次期社長たちがどう回答したのか。ぜひアーカイブを視聴してみてください。決してメディアを中抜きしたり、マスメディアに対抗する新たなメディアとして運営しようなどとは考えていないことは明らかです。

広報に関わる人たちは今一度、本来の広報の在り方とは何かを自問自答するべきかもしれません。


2月6日(月) 荒木洋二のPRコラム
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