広報PRコラム#104 「情報発信」をひもとく(19)

こんにちは、荒木洋二です。

今年最後のコラムは「『情報発信』をひもとく」の総まとめです。今までの18回を振り返り、全体像を示します。

情報発信は次のとおり、四つの要素で構成されています。

①目的     :何のために伝えるのか。
②(主体と)対象:(誰が)誰に伝えるのか。
③情報の内容  :何を伝えるのか。
④手段     :どうやって表すのか。どうやって伝えるのか。

全体像を理解するために、改めて原点回帰してみましょう。企業にとって情報発信は宿命です。では何のために企業は情報を発信するのでしょうか。

◾️経営の両輪を担う現在進行形

当連載「『情報発信』をひもとく(2)」で、明らかにしたとおり、情報発信の目的は二つに分けることができます。その二つとは、「知らせるため」と「選ばれるため」です。

すべからく企業は永続することを目指し、日々の事業を営んでいます。永続を目指すということは常に現在進行形だ、ということです。近年、「両利き経営」が経営の世界で注目されています。「両利き経営」の本質は、イノベーションとは何かを解き明かす経営理論です。イノベーションなくして、企業は競争に打ち勝つことも生き残ることもできません。何が「両利き」かというと、「知の探索」と「知の深化」の二つをどう組み合わせるのか、ということです。本筋からずれますので、ここではこれ以上説明しません。

私はもう一つの「両利き経営」があると考えています。永続を目指す限り、経営は常に現在進行形とならざるを得ません。動かないということは停滞と衰退にしか向かいません。では経営にとって絶対に欠かせない二つの現在進行形とは何でしょうか。答えはマーケティングとブランディングです。

マーケティングとブランディングも、ある面で両利き経営といえます。企業が永続を目指す限り、終わりのない、立ち止まることが許されないのがマーケティングとブランディングなのです。この二つは永続を目指す企業には欠かせない両輪なのです。最強のバディであり、最善のコンビなのです。

◾️情報発信を二つに分解する

少々乱暴に思われる人もいるでしょうが、誤解を恐れずに大胆に結論づけます。情報発信は2種類に分解できます。マーケティングとブランディングの二つに分類できるのです。ここで今まで解説してきた①目的②対象③情報の内容④手段に関して、改めてこの二つに分類・整理して示します。次の表をご覧ください。手段に関してはストック型メディアのみに焦点を当てています。

マーケティングとは新しいつながりを築くために行うものです。まだ出会っていない、お互いに知らない者同士がどのように接点を持てるのか。未来の社員なのか、顧客なのか。あるいは未来の取引先やパートナーなのか。時代や社会環境は常に変化し続けています。

そんな時代や社会を生きる個人や法人もその意識、価値観、それに基づく行動も変化せざるを得ません。そのような変化の渦中にあって、新たな出会いを創出することなくして、企業の未来は切り開けません。新しい出会いは企業が永続を望む限り、避けて通れない宿命の道なのです。

一方、目の前を通り過ぎるだけの希薄な関係からは何も生まれません。ブランディングとは、つながりを今以上により強く太く深くするために行うものです。絆が強く太く深い分だけ、並大抵のことでは揺らいだり、切れたりしません。結果的に長く関係を続けることができるのです。

時代や環境の変化に流されたり振り回されたりせず、確かな絆を結ぶために何をすべきなのか。何を伝えるべきなのか。ブランディングにおいては無視することができないことです。環境の変化や外野の意見に流され影響されて、価値を共に生み出す仲間たちがその態度を変容するとすれば、もはや仲間とはいえません。

揺るぎない信頼関係を築けているのか。自らが掲げる理念・価値観への共感が根底にあるのか。共感を醸成するための情報を共有できているのか。そのために地道な日々の取り組みは避けて通れません。ブランディングも企業にとっては終わりのない宿命の道だ、ということです。

◾️ニュースルームこそブランディングの本拠地

情報発信とは、最終的には「選ばれ続ける」ために行うものです。選ぶ理由、選び続ける理由を相手に与えることがどれほど重要なのか。「③情報の内容」において、その理由となるのが「舞台裏」の情報であることを詳説しました。これら「舞台裏」の情報を集約・蓄積する場がニュースルームです。

知っている人、選んでいる人たち、選び続けている人たちを対象とした情報はもはや「情報発信」ではなく、それは「情報共有」といえます。共有する情報は、自社にとって前向きかつプラスの情報ばかりではありません。後ろ向きかつマイナスの情報だったとしても迅速に共有する姿勢が欠かせません。

人はミスを犯すことがあります。リスクもゼロにすることはできません。自社の経営にとってマイナスな影響を及ぼす事態に直面したとしても、隠すことなく逃げることなく、起こった事実をその過程を迅速に詳らかにするのです。事故・事件発生前後の「舞台裏」の情報を共有するということです。

ニュースルームとは、そんなマイナスの情報も集約・蓄積する場です。ニュースルームは「情報共有」の本拠地であり、ブランディングの本拠地なのです。2024年は多くの企業がブランディングの本質に気付き、ニュースルームを主軸とした情報発信、情報共有に取り組んでいくに違いありません。

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