場は、人の役割を変える:第3回 役割は、声をかけられることから変わる

場は、人の役割を変える ――利用者が、地域の担い手になっていく過程
第3回 役割は、声をかけられることから変わる
自由に使える空間を用意するだけで、人が地域の担い手になるわけではありません。
誰かがその人を見つけ、声をかけ、最初の一歩を支える。
iti SETOUCHIで起きている役割の変化から、その過程を考えます。
前回まで、iti SETOUCHIが「買う場所」ではなく「使う場所」として設計されていること、直接の利益だけでは測れない価値を事業の中に組み込んでいることを見てきました。
施設の約半分を占めるパブリックスペース。
仕事や打ち合わせに使えるコワーキングスペース。
中高生が無料で自習できる場所。
イベントやマルシェ、ものづくりに使える空間。
こうした余白があることで、人は買い物以外の目的でも訪れられます。
けれど、空間を用意するだけで、利用者が企画者や運営者へ変わるわけではありません。
自由に使ってくださいと言われても、何をしてよいのか分からない。
興味はあっても、自分から声を上げるほどの自信はない。
何かを始めたい気持ちはあっても、誰に相談すればよいのか分からない。
多くの人は、そうした段階にいます。
役割が変わるためには、空間と人の間をつなぐ存在が必要です。
iti SETOUCHIでは、スタッフ全員が「コミュニティーマネジャー」として、人、店、企業、活動をつなぐ役割を担っています。
施設を管理するだけではありません。
そこに来る人を見ている。
話を聴く。
興味や得意なことに気付く。
人と人を引き合わせる。
小さな企画を一緒に考える。
最初は支え、少しずつ本人たちに任せていく。
役割の変化は、こうした働き掛けから始まります。
早稲田大学の調査では、iti SETOUCHIで活動する人への聞き取りを通じて、本人の内側にあった動機と、運営側からの誘いや紹介が重なることで、活動が始まっていたことが示されています。
つまり、人は突然、地域の担い手になるのではありません。
「やってみませんか」
「この人と話してみませんか」
「まずは小さく始めてみませんか」
誰かから差し出された言葉によって、自分にもできるかもしれないと思える。
その小さな変化が、役割の変化につながります。
中高生の関わりにも、その過程が見えます。
最初は、勉強をするために訪れる。
施設で過ごす。
そこで働く人や活動している人と顔見知りになる。
やがて、自分たちで1日限りのカフェを開く。
音楽イベントを企画する。
仲間と活動する場所を持つ。
自習する人が、参加する人になる。
参加する人が、企画する人になる。
企画する人が、次に来る人を迎える側になる。
役割は一度に変わるのではなく、関わりの積み重ねによって少しずつ重なっていきます。
地域の事業者にも同じことが起きています。
当初は自らの事業の新しい可能性を探していた人が、iti SETOUCHIの立ち上げに関わり、やがて定期的なマーケットを運営する側になる。
そのマーケットも、最初に決めた形のまま続いているわけではありません。
農産物を中心にした市場から、健康や暮らしに関わる出店者も加わる場へと変化していく。
新しい参加者が入り、関係が広がることで、活動そのものも形を変えていきます。
ここには、運営者と利用者、出店者と来訪者という固定された分け方だけでは捉えきれない関係があります。
一人の人が、ある日は利用者であり、別の日には出店者になる。
イベントに参加した人が、次は運営を手伝う。
施設を使う企業が、別の活動を支援する。
中高生が、自分たちより後に来る人を迎える。
人の役割が、一つではなくなっていきます。
この重なりが増えるほど、場は「誰かが運営する施設」から、「自分も少し関わっている場所」へと変わります。
ただし、役割の変化を設計することは、すべての利用者に参加や貢献を求めることではありません。
ただ過ごしたい人もいます。
イベントを見るだけの人もいます。
何かを始める気持ちには、まだなれない人もいます。
そのままでいられることも、場の大切な役割です。
誰もが担い手になるべきだと求められれば、場は息苦しくなります。
参加することが条件になれば、自由に過ごせる余白は失われます。
役割の変化は、強制されるものではありません。
関わりたいと思ったとき、入っていける。
少し離れたくなったとき、距離を置ける。
また関わりたくなったとき、戻ってこられる。
その選択肢があるからこそ、人は自分の速度で関係を深められます。
役割の変化を設計するとは、利用者を効率よく担い手へ転換することではありません。
人を見つけること。
声をかけること。
初めの一歩を小さくすること。
失敗しても続けられるように支えること。
いつまでも運営側が抱え込まず、少しずつ任せること。
そして、関わらない自由も残しておくこと。
こうした働き掛けと余白の両方を用意することです。
iti SETOUCHIでは、その役割をコミュニティーマネジャーが担っています。
しかし、この働きが、特定の人の経験、人脈、感覚だけに依存していれば、関係者が代わったときに同じ循環を続けられるとは限りません。
誰に、なぜ声をかけたのか。
最初の一歩を、どのように支えたのか。
どこから本人に任せたのか。
どんな行き違いや迷いがあったのか。
場を長く続けるためには、こうした判断も、次の人へ引き継げる形にしていく必要があります。
次回は、役割の変化を一時的な熱量で終わらせず、変化しながらも場を長く続けるために、何を仕組みとして残す必要があるのかを考えます。
