総合商社は日本独自のビジネスモデルなのか:第4回 総合商社はこれからの日本に何をもたらすのか

総合商社は日本独自のビジネスモデルなのか
第4回 総合商社はこれからの日本に何をもたらすのか
総合商社は、日本という国にとってどのような存在なのでしょうか。ドラマ『VIVANT』(株式会社TBSテレビ、2023年/2026年)では、総合商社に勤める主人公が、国境を越える物語の中心に置かれていました。商社と国家の関わりは、物語の題材にもなるテーマです。
この連載では、総合商社という企業形態の特徴を確かめ、異なる機能を接続する働き、そして会社の断絶を越えて引き継がれる人材や関係、判断の蓄積を見てきました。最終回では、その蓄積が、これからの日本に何をもたらすのかを考えます。
私が注目したいのは、日本が必要なときに選べる供給先や取引の経路を、どれだけ持てるかということです。手掛かりとなるのが、双日株式会社(以下、双日)などが取り組んできたレアアースの供給網です。
1 鉱山から、日本で使える原料へ
レアアースの一部は、電気自動車や産業用ロボットなどに使われる磁石の材料です。なかでも、ジスプロシウムやテルビウムという重希土類は、磁石の耐熱性を高めるために用いられます。
ただし、鉱山があれば、そのまま日本の工場で使えるわけではありません。鉱石から必要な成分を分離・精製し、金属や合金に加工し、求められる品質の磁石へと仕上げる工程があります。独立行政法人 エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)の『レアアースの供給と課題』(JOGMEC、2024年)も、採掘と、その後の加工工程を分けて供給網の課題を整理しています。
このつながりの途中に供給の集中があれば、鉱山のある国を増やすだけでは、選択肢を十分に増やしたことになりません。日本が使える原料として届くまでの経路をつくる必要があります。
2011年、双日とJOGMECは、オーストラリアの資源会社ライナス・コーポレーション・リミテッド(現ライナス・レアアース・リミテッド、以下、ライナス)への総額2億5千万米ドルの出融資を決定し、日本向けの長期供給契約を結びました。双日は日本市場での販売を担い、需要家の開拓や資金調達の組成も進めていました。
JOGMECは、資源開発に伴う不確実性、長い開発期間、多額の資金というリスクを、出資や融資などによって分担しています。
海外の生産者、公的な資金、日本の買い手を結び付ける。ここには、第2回で見た接続能力が、具体的な事業と契約の形で現れています。
2 契約の先にある、品質をつなぐ仕事
しかし、資金と契約がそろえば、安定した供給が直ちに完成するわけでもありません。
双日は、ライナスが2013年に生産を始めた当初、日本の需要家が求める品質や仕様を安定的に満たすことが難しい時期があったと説明しています。需要家の要望や蓄積した知識をライナスへ伝え、両社で品質の改善を重ねたというのです。
供給者がつくれるものと、需要家が使えるものとの間には、隔たりがあります。その隔たりを埋めるには、双方を知り、要求を伝え、解決を続ける仕事が必要です。長年の関係や知識が価値を持つのは、このような場面でしょう。
取り組みは、その後、重希土類にも広がります。2023年には、双日とJOGMECが共同出資会社を通じて2億豪ドル相当の追加出資を決定し、重希土類の分離開始に向けた投資と、日本向け供給契約を結び付けました。
そして2025年10月、オーストラリアで採掘し、マレーシアで分離・精製したジスプロシウムとテルビウムの日本向け輸入が始まりました。出資や契約と、実際に原料が届くこととの間には、設備を動かし、供給を立ち上げる時間があります。
この事例から見えてくるのは、日本国内だけで完結する調達とは異なる姿です。オーストラリアとマレーシア、日本の仕事を結び、供給の経路を増やしています。総合商社の国家的な価値を考えるうえで、私はこの点を重く見たいと思います。
3 選択肢には、維持する費用がある
さらに、供給先は一度つくれば残り続けるものではありません。買い手が価格の安さだけで調達先を選び直せば、別の供給源を維持する事業が成り立たなくなることも考えられます。選択肢を持ち続けるには、それを支える取引条件が必要です。
2026年3月、ライナスは、双日とJOGMECが設けた事業会社Japan Australia Rare Earths B.V.(JARE)との供給契約を2038年まで更新したと公表しました。更新契約では、磁石の材料となるネオジムとプラセオジムの製品について、年間5千トンの引取りを確約し、1キログラム当たり110米ドルの下限価格を設定しています。
供給を求める側も、一定量を買い続ける約束と価格の下支えを引き受ける。その条件が契約になっています。同時に、ネオジムとプラセオジムの価格が一定の水準を超えた場合には、その上昇分の一部をJAREへ還元する仕組みも設けられています。
双日の発表では、重希土類などの日本向け供給枠も広がりました。ただし、契約で確保した枠と、実際の生産・納入量は別です。枠を設けた後も、供給を続けられるかを見ていく必要があります。
ここで問われるのは、供給の選択肢を持つために、どの程度の費用を引き受けるかです。今回確認した公開資料だけでは、その費用が最終的に官民や需要家の間でどう配分されるかまでは分かりません。国家的な価値があると評価するなら、その価値を支える費用と責任についても説明が必要だと考えます。
4 国益と企業利益を、仕組みで結ぶ
この事例を「商社が日本を支えた」という一文でまとめると、公的機関、海外の生産者、日本の需要家が担った仕事が見えにくくなります。
JOGMECの『出融資及び債務保証採択審査基準(金属鉱物・海外)』(JOGMEC、2022年改正)には、事業の経済性や許認可に加え、自然・社会環境、日本への供給の可能性、政策的な意義などが含まれています。公的な意義と、実際に事業を続けられる条件を、併せて判断する仕組みです。
国は安定した供給を求め、企業は事業を継続できる収益を必要とします。海外の生産者や資源国にも、それぞれの利益と判断があります。それらが重なる条件を、出資や契約、審査や見直しによってつくっていく。国益と企業利益の関係は、そのように具体的に考えられるのではないでしょうか。
私が制度資本として捉えたいのは、こうした協力を持続させる仕組みです。人脈や信頼があっても、誰が決め、誰が負担し、条件が変わったときにどう見直すかが曖昧なままでは、長い時間を要する事業を支えきれません。
5 国家的な価値を、地域の暮らしまで広げる
費用や責任には、投資資金や購入価格だけでは捉えられないものもあります。ここで、洋上風力発電を補助線に考えてみたいと思います。
脱炭素のための電源を増やすことに価値があっても、その海は、すでに漁業者の生活の場であり、生き物の生息する場所です。公益財団法人 海洋生物環境研究所の『洋上風力発電による漁業の操業および魚類の行動・回遊への影響について(補足)』(同研究所、2023年)は、工事や設備によって漁場が減ったり、漁船の航行や漁具の使用が制約されたりする可能性を挙げています。
『洋上風力発電所の環境影響に係るモニタリングガイドライン』(環境省・経済産業省、2025年)も、洋上風力の環境影響には科学的知見が十分に蓄積されていないとしています。工事中や稼働中の水中音、海生哺乳類の生息状況などを観測し、重大な影響が分かった場合には、追加の環境保全措置を検討する考え方を示しています。
影響の程度は、海域や工事の方法、漁業のあり方によって異なります。だからこそ、事業を進める前から地域の声を判断に取り込み、始めた後も確かめ、必要に応じて変えられることが大切です。
日本全体にとって価値がある事業を、地域の暮らしや環境も含めて成り立たせる。その責任まで引き受けて初めて、国家的な価値は持続するのだと思います。これは、供給網を海外へ広げるときにも、忘れてはならない視点です。
6 蓄積を、未来の選択肢に変えられるか
総合商社は、日本独自のビジネスモデルなのか。この問いから出発した連載で、私の関心は、日本だけに存在するかどうかから、日本で育ち、受け継がれてきた能力をどう理解するかへと深まりました。
歴史のなかで得た知識や判断が、関係を築く仕事に生かされ、その関係が契約や事業を支える仕組みになる。レアアースの供給網にも、その働きの一端を見ることができます。
総合商社がこれからの日本にもたらし得るのは、国家だけでも、個々の企業だけでもつくりにくい選択肢を、実際に使える形にしていく力です。その価値は、企業の規模や利益だけでなく、供給の経路を増やし、変化に対応できる余地を残したかという点からも評価したいと思います。
そのためには、商社の接続能力に期待するとともに、公的支援の理由と負担、関係する人々の参加、環境への影響、事業を見直す条件を明らかにしていく必要があります。蓄積された関係が、新たな担い手の参加を妨げないことも大切でしょう。
日本は総合商社に何を託し、何を共に担うのか。そして、誰の暮らしや環境に関わる判断を、民間だけに委ねてはならないのか。総合商社の歴史を読み直すことは、これからの日本が持つべき選択肢と、その支え方を考えることでもあるのだと思います。
