#38 経営者は、なぜ集まるのか|第4回 

このノートの考え方については、こちらにまとめています。
ーなぜ私は「社会設計ノート」を書いているのかー

経営者は、なぜ集まるのか

― 経営者団体・コミュニティから考える関係と制度 ―

第4回 人脈は、いつ資本になるのか

前回、経営者団体やコミュニティには、それぞれ異なる役割があることを書きました。

政策について意見を届ける。
地域の事業者を支える。
経営について学ぶ。
奉仕活動に取り組む。
仕事の紹介や商談の機会をつくる。

集まる目的は、同じではありません。

ただ、どの場にも共通していることがあります。

人が、人に出会うことです。

経営者の集まりについて語るとき、「人脈」という言葉がよく使われます。

人脈を広げる。
人脈をつくる。
人脈を生かす。

私自身も、仕事につながる出会いを求めて、幾つもの場に参加してきました。

しかし、改めて考えてみると、人と知り合ったことと、その関係が何かを生み出すことは、同じではありません。

名刺を交換した。
SNSでつながった。
一度、食事をした。

それだけで、人脈ができたと言えるのでしょうか。

名刺の枚数では測れないもの

交流会に参加すると、多くの人と知り合うことがあります。

その場では会話が弾み、「今後、一緒に何かできるかもしれませんね」と話すこともあります。

けれど、その後、一度も連絡を取らないことも珍しくありません。

これは、その出会いに意味がなかったということではありません。

ただ、その段階では、まだ関係が始まる可能性が生まれただけなのかもしれません。

一度会っただけの相手に、重要な相談をすることは難しいでしょう。

自分の顧客や知人を、すぐに紹介することにも慎重になるはずです。

相手がどのような仕事をしているかだけでなく、どのように判断し、約束にどう応え、問題が起きたときにどう向き合うのか。

それは、肩書や自己紹介だけでは分かりません。

何度か対話する。
小さな約束を守る。
相手からの問いに応える。
自分も相手の話を聞く。

そうした時間の中で、少しずつ分かってくるものがあります。

人脈の価値は、知っている人の数だけでは測れません。

その人と、どのような関係を築いてきたのか。

そこに目を向ける必要があるのだと思います。

人そのものを「資本」と呼ぶのではない

社会関係資本という考え方があります。

研究者によって定義は異なりますが、持続的な関係を通じて得られる情報、信用、協力、規範などを、社会の中に存在する資源として捉える考え方です。

ある人を知っていることで、新しい情報に接することができる。

困ったときに相談できる。

互いに助け合うことへの期待が生まれる。

誰かとの関係が、別の人や組織との接点を開く。

社会関係資本の研究は、こうした働きが、人と人との関係の中に存在することを示してきました。 経営者団体・経営者コミュニティに関する基礎調査レポート

ただし、ここで注意したいことがあります。

人そのものを、利用できる資源として扱うのではありません。

「自分にはこれだけ使える人がいる」と考えることは、関係を築くこととは違います。

資本と呼べるものがあるとすれば、それは人そのものではなく、人と人との間に蓄積された信頼や、応答の履歴、互いについての理解です。

相手を手段として見るのではなく、関係の中で生まれたものを見る。

その区別は、大切だと思います。

紹介するとき、何が動いているのか

私自身の経験を振り返ると、ある経営者コミュニティで出会った社長から、別の企業を紹介してもらったことがあります。

その紹介が、今も続く顧客との関係につながりました。

最初の出会いから数えれば、すでに何年もの時間が流れています。

この経験を考えると、紹介とは、単に相手の連絡先を伝えることではないと分かります。

紹介する側は、

「この人なら、つないでも大丈夫だろう」

と判断しています。

紹介される側も、

「この人が紹介する相手なら、話を聞いてみよう」

と考えます。

そこでは、紹介者がそれまでに築いてきた信用の一部が、新しい関係の入口として働いています。

ただし、紹介された時点で、新しい関係が完成しているわけではありません。

紹介によって、最初の扉は開きます。

その後、約束に応え、仕事を続け、何か問題があれば説明し、信頼を積み重ねるのは、紹介された本人です。

紹介者の信用を借りて始まった関係を、自分たちの関係へと育てられるかどうか。

そこから先は、当事者同士の応答にかかっています。

そう考えると、人脈は、誰かから受け取って終わるものではありません。

受け取った関係に、どのように応えるか。

その積み重ねによって、初めて次の関係へとつながっていくのだと思います。

使うほど増えることも、失うこともある

お金や物は、使えば減ります。

けれど、人と人との関係に蓄積された信頼は、使い方によっては増えることがあります。

誰かを紹介した結果、双方にとってよい関係が生まれれば、紹介者への信頼も深まるでしょう。

教えてもらったことを自社で実践し、その経験を今度は別の経営者に伝えれば、一つの学びが次の学びにつながります。

誰かに助けられた経験があるからこそ、別の誰かを助けようと思うこともあります。

関係の中で生まれたものは、受け渡すことによって広がる可能性があります。

一方で、関係は簡単に失われます。

紹介された相手に一方的な営業を続ける。
約束に応えない。
相手から得ることだけを考える。
紹介者の名前を、自分の信用のように使う。

そのような行為が重なれば、本人だけでなく、紹介した人の信用も傷つけることになります。

人脈を「使う」という言葉には、少し危うさがあります。

関係は、一方的に消費するものではありません。

応答することによって維持され、更新されるものです。

出会いが資本へ変わるとき

では、人脈は、いつ資本になるのでしょうか。

人と出会ったときでしょうか。
連絡先を交換したときでしょうか。
仕事が生まれたときでしょうか。

私は、どれか一つの出来事だけで決まるものではないと思います。

相手のことを知る。
自分のことも知ってもらう。
互いに応答する。
小さな信頼が生まれる。
必要なときに相談し、協力する。
その経験が、次の行動に生かされる。

こうした積み重ねによって、関係は、その場限りの出会いから、何かを生み出す力へと変わっていきます。

そして、その働きが本人同士の間だけでなく、会社や地域、次に出会う人へと伝わるようになったとき、関係はさらに広い意味を持つのでしょう。

人脈は、人数ではありません。

肩書の一覧でも、交換した名刺の束でもありません。

必要なときに働く信頼と、そこに至るまでの応答の履歴です。

ただ、関係が強ければ強いほど、いつもよい結果につながるのでしょうか。

同じ人たちが繰り返し集まり、互いを信頼できるようになれば、安心して相談し、協力できるようになります。

一方、内側の関係が強くなることで、外からの人や異なる意見が入りにくくなることもあるかもしれません。

強い関係は、支えになる。
しかし、強い関係が、そのまま開かれた関係であるとは限りません。

次回は、その両面を考えてみたいと思います。

強いつながりは、本当に強いのか。

#00 なぜ、この記録を始めるのか

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