【過去の人気コラム】#64 企業の魅力を考察する(4)


2019年年末から始めた「荒木洋二のPRコラム」と「聴くコラム」ですが、おかげさまで85回の配信を重ねて参りました。
2022年7月から2023年1月までは、筆者が出版に向けた執筆活動に集中させていただきたく、新規のコラムはお休みとさせていただきます。そこで再開するまでの間、過去の配信の中から人気のあったコラムを再送させていただきます。


2022年2月7日配信

こんにちは、荒木洋二です。

前回まで3回にわたり、「魅力度ブランディングモデル」と魅力度ブランディング調査の第6回調査結果をもとに企業の魅力とは何かを明らかにしました。

特に中小・中堅企業、スタートアップにとって大切なことは、わが社の魅力(四つの人的魅力など)を目の前にいる関係者たちに伝えることです。伝えるべきものたちは目の前にいるのですから、誰か(=メディア)を頼るのではなく、自ら伝えればいいのです。では、どうやって伝えるのか。ニュースルームを立ち上げ、その場で伝え、共有するのです。ニュースルームで魅力を共有し、魅力を蓄積します。ニュースルームとは、要は広報専用ウェブサイトのことです。国内外の先進的な企業が相次ぎ導入しています。

■地域魅力創造サイクルとは

今回は、東海大学文学部広報メディア科の河井孝仁教授が提唱する「地域魅力創造サイクル」を見ていきましょう。河井教授は、自治体が行うシティプロモーションの研究が専門分野です。実際に静岡県富士市、栃木県那須塩原市、岩手県北上市、愛知県名古屋市など、多数の自治体のシティプロモーションに関わった実績があります。公共コミュニケーション学会の会長理事も務めています。

筆者が河井教授と初めて出会ったのは、10年以上前、日本広報学会で知人から紹介されたことがきっかけでした。2015年11月には同じ知人からの声掛けにより、公共コミュニケーション学会シティプロモーション事例研究会が主催するシンポジウムに、筆者もパネリストとして登壇しました。登壇した第2部のテーマは「シティプロモーション推進のための人材開発とは」。筆者は「記者クラブの積極活用による地元企業の情報発信力強化」と題して、地方中小企業が広報部を立ち上げる必要性について発表しました。ちなみに公共コミュニケーション学会は、日本広報学会の研究会の一つである行政コミュニケーション研究会が母体となって設立された団体です。

それから4年後の2019年9月、筆者が参加した静岡・東伊豆町稲取で行われた地域活性化イベントで、河井教授が登壇されました。その際に初めて「地域魅力創造サイクル」をじっくりと聞き、感銘を受けたことを覚えいています。

本題に戻ります。「地域魅力創造サイクル」とは、市町村単位の自治体の魅力を語れるようにするための考え方を示しています。河井教授の著書『「失敗」からひも解くシティプロモーション ー何が「成否」をわけたのか』(第一法規刊)から引用します(以下の括弧内、原文のママ)。

「まちの魅力を発散し、発散したまちの魅力を共有し、共有したまちの魅力を編集して『誰に共感されるまちなのか』というブランドを明らかにする。
その上で、そのブランドを基礎に、まちの様々な取組みを磨き上げ、磨き上げた取組みを魅力として再び発散するサイクルだ」といいます。

「発散 → 共有 → 編集 → 研磨 → (再)発散」というサイクルです。このサイクルを繰り返すことが重要だとしています。

■SECIモデルとの共通点

筆者が注目したのは「編集」と「研磨」です。

企業にとっての魅力とは、企業経営の「舞台裏」であることは繰り返し、当コラムでも述べてきました。「舞台裏」は魅力の宝庫であり、価値の源泉といえます。企業ブランディングとは、わが社の魅力をみんなの心に焼き印することでした。魅力の宝庫である「舞台裏」を見える化し、「みんな」を構成する「目の前にいる関係者たち」と共有することこそが、ブランディングです。

「発散」は「見える化」と等しいといえます。見える化することで共有できると考えるからです。筆者がいうところの「共有」には、「編集」も含まれています。すなわち「編集」とは、相手に伝わるように創意工夫して伝えることです。さらに言えば、相手から共感されるコンテンツとして伝わることが「共有」であるともいえるでしょう。

「研磨」とは、相手が(一度)共感することが終わりでないことを示しています。その共感が新たな行動を喚起します。そして、共感に突き動かされた行動自体が新たな魅力を生み出します。その行動そのものも魅力といえるでしょう。この生み出された魅力を再び見える化することで、サイクルが回ります。このサイクルを繰り返すことで共感は醸成され、熟成されます。共感の輪も広がります。

こうして見てくると、一橋大学名誉教授の野中郁次郎氏が提唱するSECI(セキ)モデルに相通ずるものがあります。SECIモデルの概要は、当コラム第55回をご覧いただきたい。ここでは簡潔に紹介します。Sとは「共同化(socialization)」、Eとは「表出化(externalization)」、Cとは「連結化(combination)」、Iとは「内面化(internalization)」を指します。

「研磨」は、SECIモデルの「内面化」に当たるのではないでしょうか。あるいはSECIモデルの全体を「研磨」と見ることもできます。今回は深掘りはしませんが、当コラムで今後取り上げたい、非常に興味深いテーマの一つといえます。

■関係者と作り上げる「共創エンジン」

ところで、河井教授は地域魅力創造サイクルが役所だけではできない、と強調しています。前述の著書の中で「まちに住む人たちや、まちのNPO・会社、まちの外からまちに共感する人たちとの共創・協働による『共創エンジン』が必要になる」と述べています。

筆者は、シティプロモーションとは役所を主体としたPR(パブリック・リレーションズ)だと捉えています。役所にとって「まちに住む人たちや、まちのNPO・会社、まちの外からまちに共感する人たち」は、まさしく利害関係者です。役所にとって、企業は利害関係者の一角を成しています。企業を主体とした場合、役所あるいはその地域社会(基礎自治体である市町村)も利害関係者です。

前述の「共創エンジン」も非常に示唆に富んだ内容です。次回は、「共創エンジン」を役所と企業という両者の視点から読み解くことで、企業の魅力についての考察を深めたいと考えています。

★参考文献『「失敗」からひも解くシティプロモーション ー何が「成否」をわけたのか』(河井孝仁著、第一法規刊)

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